悪役令嬢は世界のバグを修正する
王都・北貴族街。
その中心にある大邸宅の前に、
豪華な馬車が次々と止まっていた。
白い石造りの門。
広い庭園。
整えられた花壇。
中央には大きな噴水。
今日は、
王家派主催の大規模茶会。
上級貴族令嬢がほぼ全員集まる、
社交界でも重要な一日だった。
門の前に止まった馬車から、
侍女が静かに降りる。
扉が開く。
先に降りたのはセシリア。
優雅に裾を整える。
周囲を一度見て、
小さく息を吐いた。
「……すごい人数ね」
後ろからレティシアが降りる。
ドレス姿。
淡い色。
装飾は控えめ。
動きは正確。
でも少しだけ硬い。
門の中では、
すでに多くの令嬢たちが集まっていた。
庭園に並ぶ丸テーブル。
白いクロス。
銀のティーセット。
色とりどりの菓子。
焼き菓子。
果物。
高級紅茶。
見た目は、
完璧な優雅さだった。
だが、
空気は違う。
静かに緊張している。
誰も大きな声を出さない。
姿勢がいい。
動きが揃っている。
ここが、
厳格なマナー空間だと分かる。
レティシアが一歩進む。
その瞬間だった。
近くにいた令嬢が気づく。
目が止まる。
そして、
隣の令嬢に小さく言う。
「……来た」
別の席でも声。
「来たわ」
「優勝者」
「大会の」
「満点の子」
視線が動く。
一人。
また一人。
次々に。
気づけば、
庭園中の視線がこちらに向いていた。
興味。
警戒。
嫉妬。
評価。
全部混ざった目。
ヒソヒソ声が広がる。
「例の子よ」
「構造干渉したって」
「研究所が見てるって」
「王宮も注目してるらしい」
「でも社交はどうなの?」
「変わってるって聞いた」
セシリアが小声で言う。
「見られてるわね」
レティシアは答える。
「うん」
少しだけ周囲を見る。
配置。
距離。
席順。
立ち位置。
全部決まっているみたいだった。
大会の会場に似ている。
違うのは、
剣も魔法もないことだけ。
その時。
視界の端が揺れた。
赤いノイズ。
一瞬だけ。
文字が浮かぶ。
SYSTEM
冷たい表示。
次の行。
SOCIAL EVENT START
さらに一瞬。
STATUS TRACKING ENABLED
消える。
風が吹く。
庭の花が揺れる。
令嬢たちは普通に会話している。
誰も気づかない。
レティシアだけが止まる。
小さく息を吐く。
心の中で呟く。
(始まった)
少し間。
(社交イベント)
さらに。
(戦闘開始)
遠くの席で、
王家派の令嬢たちがこちらを見ていた。