悪役令嬢は世界のバグを修正する
紅茶が行き渡ると、
庭園の空気が少しだけ緩んだ。
令嬢たちがカップを持ち、
ゆっくりと会話を始める。
最初は静かに。
だがすぐに、
あちこちで自然な雑談が広がっていった。
「今年は暖かいですわね」
「ええ、領地でも花が早く咲いて」
「春の舞踏会も早まりそうですわ」
「うちにも招待状が届きましたの」
「王都は忙しくなりますわね」
話題は軽い。
季節。
領地。
舞踏会。
家の話。
どれも当たり障りのない内容。
なのに、
会話が滑らかだった。
誰も詰まらない。
誰も黙らない。
自然に続く。
まるで決まった流れがあるみたいに。
レティシアは黙って聞いていた。
タイミングを見て、
口を開く。
「今年は暖かいね」
隣の令嬢が微笑む。
「ええ、本当に」
少し間。
レティシアが続ける。
「花も早い」
「そうですわね」
また間。
会話が止まる。
隣の令嬢が少しだけ困った顔をする。
別の令嬢が助けるように入る。
「アルヴェルン家の領地は南でしたわね?」
レティシアが頷く。
「うん」
「暖かそうで羨ましいですわ」
「普通」
短い。
それだけ。
沈黙が落ちる。
ほんの数秒。
でも、
この場所では長い。
隣の令嬢が笑顔のまま視線を逸らす。
別の席から声が飛ぶ。
「舞踏会の準備は進んでいますの?」
会話の流れが移る。
レティシアの周りだけ、
少しだけ空気が止まる。
誰かが小声で言う。
「……淡々としてるわね」
別の声。
「悪い人じゃないけど」
「話しにくい」
「変わってるわ」
「優勝者なのに」
笑顔のまま、
評価が動く。
レティシアはそれを感じる。
言葉ではなく、
空気で分かる。
距離ができる。
目を合わせなくなる。
話題が来なくなる。
セシリアが横で気付く。
小さく言う。
「もっと広げて」
レティシアが小声で返す。
「広げる?」
「話」
「続けて」
少し考える。
そして、
向かいの令嬢に言う。
「舞踏会は好き?」
令嬢が少し驚く。
「え?」
「好き?」
間。
令嬢が笑顔を作る。
「ええ、好きですわ」
「そう」
終わる。
また沈黙。
今度ははっきり止まった。
別の席から笑い声が聞こえる。
こちらだけ、
静か。
誰かが扇子で口元を隠す。
「やっぱり…」
小さな声。
「変わってる」
「会話が続かない」
「研究者タイプね」
「社交向きじゃない」
レティシアの胸の奥が、
少しだけ重くなる。
その瞬間。
視界が赤く揺れた。
SYSTEM
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CONVERSATION CHECK
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COMMUNICATION LOW
すぐ消える。
レティシアの指が止まる。
心の中で思う。
(低い)
少し間。
(コミュ力…)
顔を上げる。
周囲を見る。
令嬢たちは楽しそうに話している。
自然に笑っている。
無理していない。
それが、
一番難しい。
レティシアは小さく呟く。
「……戦闘より難しい」
誰にも聞こえなかった。