悪役令嬢は世界のバグを修正する
会話の流れが落ち着き始めた頃。
庭園の奥の席から、
数人の令嬢がゆっくり立ち上がった。
王家派の席。
中心にいるのは、
エレノア。
相変わらず完璧な笑顔。
姿勢も、
歩き方も、
一切乱れない。
その後ろに、
同じ派閥の令嬢たちが続く。
周囲の空気が少し変わる。
近くの令嬢が小声で言う。
「来るわよ…」
別の声。
「王家派…」
「エレノア様が動いた」
視線が集まる。
レティシアの席へ。
セシリアがわずかに眉を動かす。
小さく言う。
「……来たわね」
レティシアは答えない。
ただ前を見る。
エレノアたちは、
そのまま自然な顔で近づいてきた。
そして、
レティシアの前で止まる。
優雅に礼。
「ご一緒してもよろしいかしら」
断れない。
断る空気じゃない。
レティシアが頷く。
「どうぞ」
席に座る。
王家派の令嬢たちが周囲を囲む形になる。
逃げ場がない配置。
エレノアが微笑む。
「改めまして」
「大会優勝、おめでとうございます」
声は柔らかい。
でも、
周囲の空気が少し張る。
レティシアが答える。
「ありがとう」
短い。
エレノアは気にしない顔で続ける。
「満点だったとか」
「本当にすごいわ」
一拍。
「魔法を干渉したと聞きましたけれど」
周囲の令嬢たちが、
さりげなく耳を傾ける。
レティシアが答える。
「干渉した」
エレノアが首を傾ける。
「どうやって?」
レティシアが少し考える。
「見えたから」
間。
周囲の令嬢の手が止まる。
エレノアの笑顔がわずかに深くなる。
「見えた?」
「魔法の構造が」
さらに静かになる。
別の令嬢が入る。
「研究所も調べているそうですね」
「王宮にも報告が行ったとか」
また別の令嬢。
「騎士団も興味を持っていると聞きましたわ」
「本当ですの?」
質問が続く。
逃げ道がない。
レティシアが答える。
「知らない」
「聞いてない」
短い。
また一人。
「婚約はお決まりですの?」
空気が変わる。
さらに一人。
「王家が動くという噂もありますわね」
「王宮入りの可能性は?」
「どこかの家と決まっているの?」
質問が重なる。
政治。
婚約。
王宮。
派閥。
全部、
逃げにくい話題。
レティシアが少し黙る。
考える。
でも、
うまく答えが出ない。
「決まってない」
それだけ言う。
沈黙。
空気が少し冷える。
エレノアが笑う。
優しく。
でも鋭く。
「そう」
一拍。
「では、これからですのね」
周囲の令嬢たちが小さく反応する。
「……これから」
「どこに入るのかしら」
「王家?」
「騎士?」
「魔導院?」
「どこにも入らないの?」
視線が集まる。
レティシアは答えない。
答えられない。
何を言っても、
どこかに属することになる気がする。
少しだけ間が空く。
それだけで、
空気が微妙になる。
誰かが小声で言う。
「……やっぱり変わってる」
別の声。
「受け答えが短いわ」
「会話にならない」
「扱いにくい」
「強いけど…」
「社交は弱いのね」
セシリアが横で少しだけ焦る。
だが口を挟めない。
レティシアの視界が揺れる。
赤い光。
SYSTEM
次の行。
SOCIAL PRESSURE ↑
さらに表示。
STATUS DOWN
一瞬で消える。
レティシアの手が止まる。
心の中で思う。
(削られてる)
少し間。
(社交戦…)
目を上げる。
エレノアが笑っている。
完璧な笑顔。
でも、
完全に攻撃だった。