悪役令嬢は世界のバグを修正する
空気が少し落ち着いたように見えた。
だが、
王家派の令嬢たちは席を立たない。
エレノアも帰らない。
むしろ、
自然な流れのまま、
話題が変わる。
エレノアが紅茶を口にし、
静かに言う。
「そういえば」
「今年は王宮の動きが多いですわね」
周囲の令嬢たちが頷く。
「ええ」
「騎士団も再編とか」
「魔導院も予算が増えたとか聞きましたわ」
軽い雑談の形。
だが、
誰もが分かっている。
これは社交の本題。
政治の話。
エレノアが、
何気ない顔でレティシアを見る。
「アルヴェルン家は、どちらを支持なさるの?」
空気が止まる。
一瞬で。
周囲の令嬢たちの手が止まる。
視線が集まる。
セシリアの指がわずかに動く。
止めたい。
でも止められない。
レティシアが少し考える。
「どちら?」
エレノアが微笑む。
「王家か」
「騎士団か」
「魔導院か」
一拍。
「それとも古貴族かしら」
周囲の令嬢が小さく笑う。
「全部ありますものね」
「迷いますわ」
別の令嬢が言う。
「新貴族派も最近は強いですわよ」
また一人。
「大会優勝者なら、どこでも歓迎でしょうね」
逃げ道を塞ぐように、
選択肢が並ぶ。
全部、
派閥。
全部、
選べばどこかに入る。
レティシアは黙る。
考える。
だが、
頭の中で言葉が並ばない。
王家。
騎士団。
魔導院。
古貴族。
新貴族。
どれも、
正解に見えない。
どれも、
選びたくない。
少しだけ間が空く。
それだけで、
空気が冷える。
エレノアが優しく促す。
「どこも支持なさらないの?」
レティシアが答える。
「まだ」
周囲の令嬢が目を細める。
「まだ?」
レティシアが続ける。
「決めてない」
沈黙。
誰もすぐには喋らない。
数秒。
長い。
一人の令嬢が小さく言う。
「……中立?」
別の声。
「珍しいですわね」
「普通は家で決まっているでしょう?」
また別の声。
「優勝したから自由なのかしら」
「それとも…」
少しだけ声を潜める。
「どこにも入れない?」
空気がさらに冷える。
エレノアは笑顔のまま言う。
「中立は難しいですわよ」
一拍。
「この国では」
周囲の令嬢が頷く。
「ええ」
「どこかに属さないと」
「守られませんもの」
「逆に…」
小さな声。
「危険ですわ」
視線がレティシアに集まる。
値踏みする目。
評価する目。
測る目。
レティシアは何も言わない。
言えない。
その瞬間。
視界が赤く揺れる。
SYSTEM
表示。
FACTION SELECT — NONE
次の行。
SOCIAL STATUS ↓
さらに。
RISK LEVEL ↑
一瞬で消える。
レティシアの指が止まる。
心の中で思う。
(下がった)
少し間。
(選ばないと…下がる)
顔を上げる。
周囲を見る。
令嬢たちはもう普通に紅茶を飲んでいる。
だが、
距離ができている。
ほんの少し。
でも確実に。
誰かが小さく言う。
「……扱いにくいわね」
別の声。
「強いけど」
「危ない」
「どこにも属さないなら…」
一瞬の沈黙。
「孤立するわ」
セシリアが横で小さく息を吐く。
レティシアだけが、
はっきり理解していた。
これは戦闘。
そして今、
負けている。