悪役令嬢は世界のバグを修正する
第3巻 第5章 婚約候補イベント
シーン2 セシリア説明
貴族学園・中庭。
昼の休憩時間。
春の風が木々を揺らし、噴水の水音が静かに響いている。
令嬢たちはいつものように派閥ごとに集まっていたが、
今日はどこも落ち着きがなかった。
小声。
早口。
真剣な顔。
笑っていても目が笑っていない。
婚約会の発表があったばかりだからだ。
レティシアは木陰のベンチに座っていた。
本を開いているが、読んでいない。
視線は遠く。
空を少しだけ見ている。
その横に、
セシリアが立った。
腕を組み、周囲を一度見回す。
派閥の位置。
距離。
誰が誰と話しているか。
全部確認してから、
小さく言った。
「さっきの発表」
レティシア
「婚約会?」
セシリア頷く。
「ええ」
少し間を置く。
そして静かに言う。
「最大イベントよ」
レティシアは首を傾げる。
「そんなに?」
セシリアはため息をつく。
「そんなに、どころじゃないわ」
指で周囲を示す。
「見なさい」
王家派の令嬢たちが固まって話している。
騎士派が別の場所で相談している。
魔法派は教師と話している。
古貴族派は静かに集まり、
新貴族派は慌ただしく動いている。
セシリア
「婚約会はね」
「ただの結婚相手探しじゃないの」
一本ずつ指を立てる。
「家格が上がる」
もう一本。
「派閥が決まる」
もう一本。
「将来が決まる」
最後にもう一本。
「政治が決まる」
レティシアは少し考える。
周囲を見る。
配置。
距離。
空気。
確かに違う。
いつもより張り詰めている。
セシリアが小さく言う。
「ここで決まるのよ」
「この先全部」
レティシアはしばらく黙る。
それから、
ぽつりと言った。
「ゲームの最終選択みたい」
セシリアは一瞬だけ目を丸くして、
すぐに苦笑した。
「……そうよ」
肩をすくめる。
「その通り」
「ルート分岐ってやつね」
レティシアの目がわずかに動く。
「ルート…」
その瞬間。
視界が揺れた。
赤いノイズ。
空気が一瞬だけ遠くなる。
文字が浮かぶ。
SYSTEM
ROUTE SELECTION PHASE
次の行。
SOCIAL ROUTE ACTIVE
さらに。
RIVAL ROUTE PRIORITY
一瞬だけ点滅。
すぐ消える。
レティシアは動かない。
ただ前を見ている。
セシリアが気付く。
「どうしたの?」
レティシアは首を振る。
「……ううん」
少し間。
小さく言う。
「分岐だ」
セシリア
「え?」
レティシアは空を見る。
青空。
雲。
普通の空。
でも、
ほんの一瞬だけ。
空の奥に細い線。
重なった模様。
ルーン。
すぐ消える。
レティシアの目が細くなる。
(まただ)
心の中でつぶやく。
(選ばせてる)
少し間。
(世界が)
風が吹く。
木の葉が揺れる。
中庭のざわめきが戻る。
セシリアが言う。
「今回は大きいわよ」
「下手したら王家が決める」
レティシアは答えない。
ただ小さくつぶやいた。
「……分かってる」
誰にも聞こえない声で。
「最終選択だ」