悪役令嬢は世界のバグを修正する
貴族学園・サロン棟。
上級令嬢専用の大広間。
高い天井。
壁には王家の紋章。
長い窓から春の光が差し込んでいる。
いつもより人が多かった。
上級貴族の令嬢たちがほぼ全員集まっている。
王家派。
騎士派。
魔法派。
古貴族派。
新貴族派。
それぞれ固まって座りながらも、
今日は全員が前を見ていた。
ざわめきが止まらない。
「何か発表があるらしいわ」
「侍女まで来てる」
「王宮の人もいるって」
入口の扉が開く。
教師が入ってくる。
その後ろに、
侍女。
そして、
王宮の紋章を付けた文官。
空気が一気に張り詰める。
令嬢たちが姿勢を正す。
椅子の音が揃う。
教師が中央に立つ。
静かな声で言う。
「これより」
「王宮からの通達を伝える」
ざわめきが止まる。
全員が息を止める。
文官が一歩前に出た。
巻物を開く。
ゆっくり読み上げる。
「本年、春季における」
「上級貴族令嬢対象」
「婚約選定会の開催を宣言する」
一瞬の静寂。
次の瞬間、
サロンがざわめいた。
「来た…」
「もう?」
「今年早い…」
「王家主導…?」
文官は続ける。
「本選定会は王家の承認のもと」
「王都貴族社会の正式行事として行われる」
「参加者は以下」
紙をめくる。
「第一王子候補」
「第二王子候補」
ざわめきがさらに大きくなる。
「騎士団推薦候補」
「侯爵家嫡男」
「公爵家次男」
「魔導院首席候補」
歓声に近いざわめき。
令嬢たちの目が変わる。
本気の目。
誰かが小声で言う。
「本番来た」
別の令嬢。
「今年早すぎない?」
さらに別の声。
「王家が動いたのよ」
「だから早いの」
「今年は大きい」
「本気の婚約会だわ」
空気が変わる。
ただの交流会ではない。
戦場の空気。
セシリアが小さく息を吐く。
「……来たわね」
隣に立つレティシアを見る。
レティシアは無表情だった。
「婚約会?」
セシリア頷く。
「最大イベントよ」
「ここで全部決まる」
レティシアは少しだけ考える。
そして小さく言う。
「イベント…」
その瞬間。
視界が揺れた。
赤いノイズ。
文字が浮かぶ。
SYSTEM
MARRIAGE EVENT START
次の行。
ROUTE SELECTION ACTIVE
さらに。
SOCIAL ROUTE PRIORITY
一瞬だけ点滅。
表示は消える。
レティシアの目が細くなる。
周囲のざわめきが遠く聞こえる。
令嬢たちの声。
期待。
焦り。
興奮。
全部が重なって聞こえる。
小さくつぶやく。
「……強制」
セシリアが振り向く。
「え?」
レティシアは首を振る。
「なんでもない」
前を見る。
サロンの中央。
文官が巻物を閉じる。
教師が言う。
「詳細は後日発表する」
「各自準備を整えよ」
その一言で、
空気が完全に変わった。
令嬢たちが立ち上がる。
派閥ごとに集まる。
すでに戦いが始まっている。
レティシアだけが動かない。
その視界の奥に、
ほんの一瞬だけ。
空間に細い線が走る。
ルーン。
すぐ消える。
誰も気付かない。
レティシアだけが見ていた。
(また始まった)
春の光の中で、
イベントが動き出していた。