悪役令嬢は世界のバグを修正する
夜。
アルヴェルン家の屋敷。
レティシアの部屋。
窓が開いている。
夜風が静かにカーテンを揺らしていた。
机の上には開いた本。
読みかけのまま。
椅子は空。
レティシアは窓の前に立っていた。
空を見ている。
星が出ている。
静かな夜。
何も起きていないように見える。
だが、
一つの星が揺れた。
ほんのわずか。
瞬きのような歪み。
ノイズ。
空間がざらつく。
レティシアの目が細くなる。
また揺れる。
今度ははっきり。
空の奥に、
線が走る。
重なるような光の形。
文字のような模様。
ルーン。
前より濃い。
前より近い。
視界の端が赤く染まる。
表示が浮かぶ。
SYSTEM
SOCIAL ROUTE UNSTABLE
次の行。
CORRECTION REQUIRED
さらに。
ELIMINATION POSSIBLE
文字がわずかに揺れる。
ノイズが走る。
レティシアは動かない。
ただ見ている。
静かに、
心の中で言葉が浮かぶ。
(世界が…)
少し間。
(整えようとしてる)
表示が点滅する。
SOCIAL ROUTE ERROR
RIVAL ADVANTAGE FIXING
STRUCTURE ADJUSTING
レティシアの指がわずかに動く。
窓枠に触れる。
冷たい感触。
現実の感触。
でも、
空の奥には別の層がある。
(私を)
少し間。
(直そうとしてる)
ルーンが重なる。
線が増える。
空が一瞬だけ、
格子のように見える。
すぐ戻る。
表示が最後に変わる。
ELIMINATION POSSIBLE
READY
その瞬間。
遠くで鐘が鳴る。
夜の鐘。
王都の中心から響く音。
レティシアはゆっくり視線をずらす。
遠く。
王都の上級貴族街。
灯りが並んでいる。
その中の一つ。
大きな屋敷。
明るい窓。
笑い声が風に乗る。
令嬢たちの声。
楽しそうな空気。
その屋敷。
エレノアの家。
窓の奥で影が動く。
笑っているように見える。
レティシアは小さくつぶやく。
「……そう」
少し間。
「次は直接だ」
空を見る。
ルーンがゆっくり消えていく。
赤文字も消える。
夜は静かに戻る。
だが、
流れはもう決まっている。
レティシアは窓を閉める。
部屋の灯りが揺れる。
闇の中で、
彼女の目だけが静かに光っていた。