悪役令嬢は世界のバグを修正する
放課後の学園。
人の少なくなった廊下。
窓から差し込む夕方の光が長く伸びている。
レティシアは一人で歩いていた。
足音だけが響く。
規則的な音。
誰もいない。
誰も話しかけない。
誰も近づかない。
昼間と同じ。
いや、
昼間より静かだった。
階段の前で止まる。
少しだけ目を閉じる。
息を吐く。
その瞬間。
視界が揺れた。
ノイズ。
赤い光。
文字が浮かぶ。
SYSTEM
SOCIAL PRESSURE ↑
一行追加される。
RIVAL ADVANTAGE ↑
さらに表示。
EVENT CONTROL ACTIVE
レティシアは動かない。
目を細めて、
その文字を見る。
また一行増える。
ELIMINATION FLOW START
空気が変わる。
廊下の景色が少しだけ遠く見える。
音が薄くなる。
まるで、
世界の上に別の層が重なったような感覚。
レティシアの心の中で、
言葉が浮かぶ。
(……誘導されてる)
表示は消えない。
赤いまま残る。
さらにノイズ。
別の行。
SOCIAL STATUS ↓
ISOLATION ↑
RIVAL CONTROL ↑
一瞬だけ、
画面の奥に別の文字。
WORLD STRUCTURE ADJUSTING
すぐ消える。
レティシアの指がわずかに動く。
空中に触れるように手を上げる。
何もない場所。
でも、
そこにある。
見えない壁。
見えない線。
見えないルーン。
触れそうで、
触れない。
小さくつぶやく。
「……やっぱり」
少し間。
「イベントだ」
赤文字が揺れる。
ELIMINATION FLOW START
その下に、
新しい行が出る。
TARGET
LETICIA ALVERN
一瞬だけ点滅。
すぐ消える。
静寂が戻る。
廊下。
夕方。
誰もいない。
何も変わっていない。
でも、
レティシアだけが知っている。
ゆっくり手を下ろす。
目を閉じる。
(世界が)
少し間。
(排除しようとしてる)
目を開ける。
まっすぐ前を見る。
小さく言う。
「……なら」
その続きは、
声にならなかった。
窓の外。
夕焼けの空。
ほんの一瞬だけ。
空間に細い線が走る。
ルーン。
そして消える。
イベントは、
もう止まらない。