悪役令嬢は世界のバグを修正する
貴族学園・中庭。
昼下がり。
噴水の音が静かに響いている。
令嬢たちはいつものように集まり、
派閥ごとに席を作っていた。
王家派。
騎士派。
魔法派。
古貴族派。
新貴族派。
それぞれの場所にそれぞれの空気。
そして、
そのどこにも入らない場所に、
レティシアが立っていた。
木の近く。
日陰。
一人。
視線だけが集まる。
声はかからない。
その時。
後ろから早い足音。
「レティシア」
振り向くと、
セシリアが来ていた。
表情が少し固い。
腕を組んだまま周囲を見る。
派閥の位置。
令嬢たちの距離。
視線の向き。
全部確認してから、
小さく言った。
「……エレノアが動いたわね」
レティシアは首を傾げる。
「そう?」
セシリアはため息をつく。
「そうよ」
「見れば分かるでしょ」
指で周囲を示す。
「誰も近づかない」
「話しかけない」
「誘われない」
「でも無視もしない」
少し間。
「一番嫌な形よ」
レティシアは周囲を見る。
令嬢たちが視線を逸らす。
ヒソヒソ声。
笑っている。
でも距離は保つ。
レティシア
「普通じゃないの?」
セシリアは即答する。
「普通じゃない」
強い声だった。
そして少し声を落とす。
「速すぎるのよ」
レティシア
「速い?」
セシリア頷く。
「噂が広がる速度も」
「評価が落ちる速度も」
「距離ができる速度も」
「全部早すぎる」
視線を細める。
「誰かが流してるだけじゃない」
「流れそのものが作られてる」
レティシアは黙る。
少しだけ考える。
それから、
ゆっくり空を見る。
青空。
雲。
普通の空。
その奥。
ほんの一瞬だけ、
空間が歪む。
細い光の線。
重なったような模様。
ルーン。
すぐ消える。
誰も気付かない。
セシリアも気付かない。
レティシアだけが見ている。
視界の端に、
赤い文字が走る。
SYSTEM
SOCIAL PRESSURE ↑
次の行。
EVENT CONTROL ACTIVE
さらに。
STRUCTURE ADJUSTING
一瞬で消える。
レティシアは目を細める。
小さくつぶやく。
「……うん」
セシリアが聞き返す。
「何?」
レティシアは首を振る。
「なんでもない」
少し間。
そして静かに言う。
「動いてるね」
セシリア
「誰が?」
レティシアは答えない。
もう一度空を見る。
さっきと同じ場所。
何もない。
でも、
確かにあった。
小さく。
誰にも聞こえない声で言う。
「……世界が」
風が吹く。
木の葉が揺れる。
中庭のざわめきが戻る。
でも、
流れはもう変わっていた。