悪役令嬢は世界のバグを修正する
貴族学園。
昼休みの時間。
中庭には生徒たちが集まり、
それぞれの派閥ごとに席を作っていた。
王家派の令嬢たちは噴水の近く。
騎士派は木陰の長椅子。
魔法派は温室側のテーブル。
古貴族派は中央寄り。
新貴族派は少し外側。
いつも通りの配置。
いつも通りの距離。
そして、
そのどこにも入らない場所に、
レティシアは立っていた。
少し離れたベンチに座る。
本を開く。
文字を追う。
だが、
視線を感じる。
右から。
左から。
前から。
遠くから。
令嬢たちがちらちら見る。
目が合うと、
すぐ逸らす。
小声。
ヒソヒソ。
「……あの子」
「例の優勝者」
「でも社交ダメらしい」
「派閥にも入ってないって」
「研究所が見てるって聞いた」
「騎士団も監視してるとか」
笑いではない。
悪口でもない。
ただの会話。
ただの評価。
それが一番冷たい。
レティシアはページをめくる。
誰も隣に来ない。
誰も話しかけない。
以前はいた。
挨拶くらいはあった。
今はない。
別の場所。
教室。
席につく。
隣の席の令嬢が、
少しだけ机をずらす。
音は小さい。
でも分かる。
距離ができる。
後ろの席。
小声。
「怖くはないけど…」
「なんか近寄りにくい」
「変わってるよね」
「どこにも属してないって」
「危なくない?」
レティシアは前を見る。
黒板。
教師の声。
普通の授業。
でも、
空気が違う。
帰り道。
廊下を歩く。
前から来た令嬢たちが、
少し端に寄る。
道を開ける。
礼もする。
態度は丁寧。
でも、
近づかない。
すれ違う時、
ヒソヒソ。
「やっぱり孤立してる」
「王家派も取らないらしい」
「騎士団も様子見って」
「社交界では終わりかもね」
声が遠ざかる。
レティシアは止まる。
廊下の真ん中。
誰もいない場所。
静か。
視界が少し揺れる。
赤いノイズ。
文字が浮かぶ。
SYSTEM
SOCIAL PRESSURE ↑
次の行。
ISOLATION ↑
さらに。
ELIMINATION ROUTE 41%
表示が消える。
レティシアは目を閉じる。
小さく息を吐く。
周囲を見る。
派閥。
距離。
視線。
位置。
全部、
構造に見える。
小さくつぶやく。
「……進んでる」
少し間。
「イベント」
窓の外を見る。
空は普通。
雲も普通。
でも、
ほんの一瞬だけ。
空間の奥に、
細い線が走る。
ルーン。
すぐ消える。
レティシアは目を細める。
「……排除ルート」
誰もいない廊下に、
彼女の声だけが残った。