悪役令嬢は世界のバグを修正する
王都騎士団本部。
石造りの重い建物の奥。
会議室。
長い机の上に、
数枚の報告書が並べられていた。
部屋にいるのは二人だけ。
騎士団隊長と副官。
窓から入る光が、
紙の上を照らしている。
副官が一枚の報告書をめくる。
「……これが最新です」
紙には評価表。
名前。
レティシア・アルヴェルン。
項目ごとに記号が並んでいる。
副官が読み上げる。
「戦闘能力……SS」
「魔力制御……SS」
「術式理解……SS」
「反応速度……SS」
少し間。
眉をしかめる。
「社交評価……D」
隊長が鼻で笑う。
「極端だな」
副官も苦笑する。
「ここまで偏るのも珍しいですね」
別の紙を出す。
「貴族社会評価」
「派閥未所属」
「王家派接触なし」
「騎士派未勧誘」
「魔導院未登録」
「社交界で孤立傾向」
副官が紙を置く。
「……孤立してますね」
静かな声。
事実確認の声。
隊長は椅子に深く座ったまま言う。
「なら動きやすい」
副官が顔を上げる。
「動きやすい?」
隊長は指で机を軽く叩く。
「どこにも属してない」
「誰も守ってない」
「誰も囲ってない」
少し間。
「つまり」
「誰でも手を出せる」
副官は少しだけ真顔になる。
「研究所も見てます」
「王宮も注目してます」
「貴族派も警戒してる」
「このままだと取り合いになりますよ」
隊長は報告書を手に取る。
決勝戦の記録。
巨大結界。
空間干渉。
停止した魔法。
小さく呟く。
「欲しがるだろうな」
副官が聞く。
「騎士団としてはどうします」
隊長はすぐ答えない。
紙を机に戻す。
ゆっくり言う。
「守るか?」
副官が確認するように聞く。
「保護対象に?」
隊長は首を振る。
「まだだ」
短い。
はっきりした声。
副官が少しだけ驚く。
「拘束も?」
隊長
「まだだ」
同じ答え。
少し間。
隊長は窓の外を見る。
訓練場。
騎士たちが剣を振っている。
規則正しい音。
「今は様子を見る」
「孤立してるならなおさらだ」
副官
「放置しますか」
隊長
「違う」
目を細める。
「近づくタイミングを待つ」
沈黙。
副官が小さく息を吐く。
「……危険ですね」
隊長は笑う。
「だからいい」
その時。
机の上の報告書が、
ほんの一瞬だけ揺れた。
光が歪む。
副官は気付かない。
隊長の視界の端にだけ、
赤い文字が走る。
SYSTEM
TARGET STATUS
ISOLATED
次の行。
CAPTURE POSSIBLE
さらに。
PROTECTION / DETENTION UNDECIDED
表示はすぐ消える。
隊長は眉をわずかに動かす。
だが何も言わない。
ただ小さく呟く。
「……どっちに転ぶかだな」
副官が聞き返す。
「何がです?」
隊長は報告書を閉じる。
「英雄になるか」
少し間。
「危険物になるか」
会議室は静かだった。
判断は、
まだ下されていない。