悪役令嬢は世界のバグを修正する
王都中央ホール・庭園側サロン。
婚約候補の紹介が終わった後。
会場の空気は完全に変わっていた。
先ほどまでの整然とした式の空気は消え、
今は――戦場。
令嬢たちが一斉に動き出す。
誰がどこへ行くか。
誰と話すか。
どの席に座るか。
全部に意味がある。
セシリアが小さく言う。
「始まったわ」
レティシア
「……何が?」
セシリアは周囲を見ながら答える。
「令嬢戦争よ」
庭園に用意された円卓。
候補者たちが分かれて座る。
その周囲に、
令嬢たちが自然に集まっていく。
自然に見える。
だが、
全員計算している。
一人が王子候補に話しかける。
すぐに別の令嬢が入る。
笑顔。
優雅な礼。
流れるような会話。
話題は軽い。
天気。
舞踏会。
領地。
だがその奥に、
家格。
教養。
判断力。
全部が試されている。
ドレスも見られている。
色。
刺繍。
宝石。
流行。
家の財力。
隣の令嬢が小声で言う。
「あの色…今年の王都流行よ」
別の令嬢。
「でも刺繍が古いわね」
さらに別の声。
「あの家、最近落ちてるって聞いた」
評価が動く。
目に見えない順位が動く。
次はマナー。
カップの持ち方。
立ち方。
礼の角度。
座る順序。
全部見られている。
さらに会話。
知識の話。
歴史。
政治。
領地経営。
魔法理論。
答えの速さ。
言葉の選び方。
沈黙の長さ。
全部が戦い。
そして、
政治。
王家の話題。
騎士団の話題。
魔導院の話題。
どこを支持するか。
どこに近いか。
曖昧にすると負ける。
言い過ぎても負ける。
完璧に答えた令嬢に、
候補が微笑む。
周囲の視線が集まる。
評価が上がる。
その中心にいるのは、
エレノアだった。
完璧なドレス。
完璧な礼。
完璧な会話。
候補の誰と話しても、
空気が崩れない。
周囲の令嬢たちが自然に位置を譲る。
誰も指示していない。
だが、
中心は彼女。
セシリアが小声で言う。
「あれが本命よ」
レティシアは黙って見ている。
興味がない。
ただ、
配置を見ている。
全員の位置。
距離。
流れ。
まるで盤面。
その時。
一人の令嬢が近づいてくる。
笑顔。
だが目は真剣。
「レティシア様」
レティシア
「はい」
「こちらへいらっしゃいません?」
王子候補の席を示す。
周囲の令嬢が見る。
試されている。
セシリアがわずかに緊張する。
レティシアは少し考えて、
首を振った。
「いいです」
令嬢の笑顔が止まる。
「……そうですか」
別の令嬢が言う。
「騎士候補の方なら…」
レティシア
「興味ありません」
空気が止まる。
一瞬だけ。
すぐに周囲が動く。
誰かが小声で言う。
「やる気ないの?」
別の声。
「婚約会なのに?」
さらに。
「不向きね」
「社交向いてない」
「やっぱり変わってる」
「魔法だけの人でしょ」
距離が少し開く。
会話が来なくなる。
視線だけ増える。
評価が下がる。
見えない順位が落ちる。
その瞬間。
視界に赤いノイズ。
SYSTEM
SOCIAL STATUS ↓
次の行。
MATCH RATE LOW
さらに。
SOCIAL FAILURE RISK
一瞬で消える。
レティシアは目を細める。
周囲を見る。
令嬢たち。
候補たち。
笑顔。
会話。
でも、
全部が同じ動きに見える。
決まった流れ。
決まった順番。
決まった結果。
心の中でつぶやく。
(負けてる)
少し間。
(ここでは)
遠くでエレノアが笑う。
候補と話している。
周囲が囲む。
中心。
完全に優勢。
レティシアは静かに目を閉じる。
(社交戦)
小さく息を吐く。
(これは…苦手だ)
風が吹く。
庭園の花が揺れる。
戦争はまだ始まったばかりだった。