悪役令嬢は世界のバグを修正する
王都中央ホール・控室。
婚約候補者用に用意された休憩室。
重厚な扉。
厚い絨毯。
外の華やかな空気とは違い、
中は静かだった。
テーブルの上には茶器。
候補者たちがそれぞれ席についている。
第一王子候補。
第二王子候補。
騎士団推薦候補。
侯爵家嫡男。
魔導院首席。
全員が先ほどまでの笑顔を消していた。
社交用の顔ではない。
評価する側の顔。
第一王子がカップを置く。
「……今年は多いな」
侯爵嫡男が頷く。
「優秀な令嬢が揃っています」
騎士候補が腕を組む。
「だが差も大きい」
魔導院首席が資料をめくる。
簡易プロフィール。
家格。
成績。
評判。
そこに一つの名前。
レティシア・アルヴェルン。
第二王子が言う。
「噂の満点優勝か」
騎士候補が小さく笑う。
「ああ」
「大会の映像見た」
「異常だな」
侯爵嫡男
「魔法の構造に干渉したとか」
魔導院首席
「研究所でも話題です」
第一王子が静かに言う。
「評価は」
紙を見る。
短い沈黙。
魔導院首席が読む。
「戦闘能力」
「SS」
騎士候補が頷く。
「納得だ」
「騎士団でも通用する」
次。
「制御能力」
「SS」
侯爵嫡男
「安定しているな」
次。
「社交能力」
少し間。
魔導院首席
「D」
騎士候補が苦笑する。
「そのままだな」
第二王子
「会話続かなかった」
侯爵嫡男
「政治質問も避けていた」
第一王子が次を見る。
「政治判断」
魔導院首席
「E」
部屋が少し静かになる。
騎士候補
「極端だな」
第二王子
「中立とも言えない」
侯爵嫡男
「判断しないタイプか」
第一王子がゆっくり言う。
「結論」
全員が少し考える。
騎士候補が先に言った。
「優秀だ」
「間違いなく」
少し間。
「だが」
「妻向きじゃない」
侯爵嫡男も頷く。
「同感です」
「家に入れるには不安定すぎる」
第二王子
「味方なら強い」
「でも家庭に入れたくない」
魔導院首席
「研究者なら最高です」
第一王子が静かにまとめる。
「優秀だが」
「婚約対象としては不適」
短い沈黙。
騎士候補が笑う。
「部下なら欲しいな」
「戦場なら最高だ」
第二王子が苦笑する。
「妃は無理だ」
侯爵嫡男
「家が壊れる」
第一王子が最後に言う。
「候補からは外す」
その瞬間。
空気がわずかに揺れた。
誰も気付かない。
だが、
レティシアの名前の書かれた紙の上に、
ほんの一瞬だけ。
赤い光。
SYSTEM
TARGET EVALUATION
LETICIA ALVERN
COMBAT SS
CONTROL SS
SOCIAL D
POLITICS E
RESULT
MARRIAGE NOT RECOMMENDED
次の行。
SOCIAL ROLE UNSUITABLE
さらに。
ELIMINATION PRIORITY LOW
表示はすぐ消える。
誰も見ていない。
誰も気付かない。
だが、
世界だけが記録していた。
控室の外。
ホールではまだ令嬢たちが戦っている。
その中で、
レティシアは一人、
窓の外を見ていた。
遠くの空。
星は見えない。
昼だから。
でも、
ほんの一瞬だけ。
空に線が走る。
ルーン。
すぐ消える。
レティシアの目が細くなる。
小さくつぶやく。
「……外された」
風が吹く。
婚約イベントは、
静かに彼女を除外し始めていた。