悪役令嬢は世界のバグを修正する
王都中央ホール・庭園会場。
婚約選定会の交流時間。
令嬢たちは自由に候補へ話しかけ、
候補は順に席を移動する。
表向きは優雅な社交。
だが実際は、
評価の場だった。
円卓の一つ。
第一王子候補の席。
そこにいるのは、
エレノアだった。
姿勢が美しい。
礼が正確。
笑顔が自然。
声の高さも、
言葉の選び方も、
すべて計算されている。
第一王子が静かに頷く。
「領地経営の話をしていたね」
エレノアは微笑む。
「はい」
「父から少しだけ」
「まだ勉強中ですけれど」
謙虚。
だが知識は十分。
第一王子の目が少し柔らぐ。
周囲の令嬢たちが気付く。
評価が上がった。
次の席。
騎士団候補。
エレノアが自然に移動する。
礼の角度が完璧。
歩幅も一定。
騎士候補が言う。
「剣はお好きですか」
エレノア微笑む。
「見るのは好きです」
「扱えませんけれど」
騎士候補が笑う。
「それでいい」
「戦うのは我々だ」
空気が良い。
距離が近い。
周囲の令嬢が視線を交わす。
「いい感じね」
「騎士派も取る気?」
「強いわ…」
次。
侯爵嫡男の席。
政治の話。
エレノアは迷わない。
「王家と騎士団の関係は安定しています」
「ですが魔導院との調整は必要かと」
侯爵嫡男が頷く。
「理解しているな」
周囲の古貴族派が満足そうに見る。
次。
魔導院首席。
魔法理論の話。
エレノアは深く踏み込みすぎない。
だが理解は示す。
「専門ではありませんが」
「理論としては興味があります」
首席が小さく笑う。
「十分です」
全部うまくいく。
全部完璧。
どの席でも空気が崩れない。
どの候補も好印象。
周囲の令嬢たちが納得する。
小声が広がる。
「やっぱり…」
「当然ね」
「エレノア様で決まりでしょ」
「今年は楽だわ」
「王家も望んでる」
空気が固まる。
中心が決まる。
序列が決まる。
その少し離れた場所。
セシリアが小声で言う。
「……まずいわね」
レティシアの横。
腕を組んでいる。
目はエレノアを見ている。
「流れが早すぎる」
レティシア
「そう?」
セシリア
「見なさい」
「全員納得してる」
「これが一番危険なの」
レティシアは少しだけ見る。
エレノア。
候補。
令嬢たち。
配置。
距離。
流れ。
全部が整っている。
完璧に。
レティシアは興味なさそうに言う。
「きれい」
セシリア
「……は?」
レティシア
「構造が」
セシリアが眉をひそめる。
「何の話?」
レティシアは答えない。
その瞬間。
視界が赤く揺れる。
SYSTEM
RIVAL ADVANTAGE ↑
次の行。
SOCIAL ROUTE STABLE
さらに。
ELIMINATION PROBABILITY ↑
一瞬点滅。
すぐ消える。
レティシアの目が細くなる。
(進んでる)
周囲を見る。
誰も気付かない。
誰も見ていない。
ただ社交しているだけ。
でも、
彼女には違って見える。
まるで、
一つの答えに向かって
全員が動かされているみたいに。
遠くでエレノアが笑う。
候補も笑う。
令嬢たちも笑う。
全員が納得している。
レティシアだけが、
納得していなかった。
小さくつぶやく。
「……近い」
風が吹く。
庭園の花が揺れる。
排除ルートは、
静かに完成に近づいていた。