悪役令嬢は世界のバグを修正する
王都中央ホール・庭園会場。
交流時間も後半に入っていた。
候補たちの周りには、
すでに決まったような輪ができている。
王子の周囲には王家派。
騎士候補には騎士派。
侯爵嫡男には古貴族派。
魔導院首席には魔法派。
そして中心には、
エレノア。
流れはほぼ固まっていた。
だが――
まだ終わっていない。
庭園の端。
人の少ない場所。
レティシアが一人で立っていた。
誰とも話していない。
誰にも話しかけていない。
ただ周囲を見ている。
配置。
距離。
視線。
流れ。
全部を観察している。
そこへ、
一人の令嬢が近づいてきた。
笑顔。
だが目は真剣。
「レティシア様」
レティシア
「はい」
「少しお話よろしいかしら?」
レティシアは頷く。
すると、
もう一人来る。
さらにもう一人。
気付けば、
三人。
四人。
五人。
自然に囲まれていた。
セシリアが遠くで気付く。
「……まずい」
令嬢の一人が言う。
「婚約会ですもの」
「予定はあるの?」
レティシア
「予定?」
別の令嬢。
「婚約予定よ」
「どこか決まってるの?」
レティシア
「ないです」
一瞬の沈黙。
視線が動く。
次の質問。
「王家から声は?」
レティシア
「ありません」
別の令嬢。
「騎士団は?」
「大会で注目されたんでしょう?」
レティシア
「知りません」
さらに。
「派閥は?」
「どこにつくの?」
「王家派?」
「騎士派?」
「魔法派?」
「古貴族?」
「新貴族?」
質問が重なる。
逃げ道を塞ぐように。
レティシアは少し考える。
そして答える。
「決めてません」
空気が変わる。
笑顔が固まる。
令嬢の一人が言う。
「決めてない…?」
別の令嬢。
「婚約会なのに?」
さらに。
「どこにも入らないの?」
レティシア
「入る必要ありますか」
空気が凍る。
完全に。
一人が小さく言う。
「……変わってる」
別の声。
「やる気ないのね」
さらに。
「婚約不向きじゃない?」
「社交向いてない」
「魔法だけの人」
「危ないって聞いたわ」
距離が少し開く。
囲んでいた輪が、
わずかに離れる。
評価が落ちた。
はっきり分かる。
その瞬間。
視界に赤いノイズ。
SYSTEM
SOCIAL STATUS ↓↓
次の行。
MATCH RATE LOW
さらに。
ELIMINATION RATE ↑
文字が揺れる。
さらに表示。
ROUTE CORRECTION ACTIVE
一瞬で消える。
レティシアの呼吸が少しだけ止まる。
周囲を見る。
令嬢たち。
笑顔。
でも目が違う。
さっきより冷たい。
遠く。
エレノアがこちらを見ている。
微笑んでいる。
勝っている顔。
セシリアが近づいてくる。
小声。
「離れなさい」
令嬢たちが散る。
自然に。
何事もなかったように。
でも、
空気は戻らない。
セシリアが小声で言う。
「……最悪ね」
レティシア
「そう?」
セシリア
「今のでほぼ決まった」
レティシア
「何が」
セシリア
「位置よ」
レティシアは少しだけ空を見る。
青空。
光。
でもその奥に、
ほんの一瞬。
薄い円。
線。
ルーン。
SYSTEMの残像。
レティシアの心の声。
(確定する)
少し間。
(排除ルート)
風が吹く。
庭園の花が揺れる。
イベントは、
終盤に入っていた。