悪役令嬢は世界のバグを修正する
大茶会の喧騒から少し離れた回廊。
白い柱が並び、庭園が見える静かな場所。
レティシアは一人で歩いていた。
足音だけが響く。
遠くから聞こえる笑い声。
食器の音。
音楽。
全部いつも通り。
……なのに。
空気だけが違う。
さっきからずっと、
視界の奥にノイズが走っている。
ちらつく。
歪む。
消える。
また出る。
レティシアは立ち止まった。
柱に手をつく。
目を閉じる。
深く息を吐く。
「……出て」
小さくつぶやく。
その瞬間。
視界が赤く染まる。
文字が浮かぶ。
SYSTEM
EVENT RESISTANCE DETECTED
レティシアの目が少し動く。
続けて表示。
RIVAL ROUTE UNSTABLE
さらに。
SOCIAL SCRIPT ERROR
空間の上に、
薄いルーンが浮かぶ。
大茶会の配置図。
派閥の位置。
令嬢の位置。
候補の位置。
全部が表示される。
だが、
固定されない。
線が揺れる。
矢印が止まる。
エレノア側に伸びるはずの流れが、
途中で止まっている。
代わりに、
別の線が重なる。
CECILIA
その文字が、
イベントの中心に食い込んでいる。
SCRIPTが点滅する。
SOCIAL ROUTE LOCKING
↓
SOCIAL ROUTE LOCKING
↓
FAILED
赤文字が増える。
FORCED CORRECTION REQUIRED
レティシアが小さく言う。
「……来る」
次の瞬間、
表示が切り替わる。
SYSTEM
FORCED CORRECTION PREPARING
空間が歪む。
ルーンが大きくなる。
円が重なる。
まるで、
別のイベントを呼び出しているみたいに。
レティシアの指が少しだけ動く。
「やっぱり」
少し間。
「止まらない」
文字がさらに増える。
EVENT FLOW ERROR
ELIMINATION NOT COMPLETE
RIVAL ROUTE NOT FIXED
CORRECTION MODE
赤文字が強く光る。
FORCED EVENT
→ READY
レティシアの目が細くなる。
理解した顔。
「……想定外」
少し間。
「姉さんのせいで」
ルーンが揺れる。
SCRIPTが書き換わる。
空間の上に、
新しい枠が出る。
大きな円。
今までより強い光。
まるで、
強制的に流れを戻そうとしている。
SYSTEM
NEXT EVENT LOADING
レティシアが空を見る。
目を離さない。
小さくつぶやく。
「強制イベント」
さらに。
「来る」
遠くで、
笑い声が聞こえる。
大茶会はまだ続いている。
誰も気付かない。
だが空の上では、
新しいイベントが、
ゆっくりと組み上がり始めていた。