悪役令嬢は世界のバグを修正する
王都、王家派専用サロン。
夜。
重厚な扉の奥にあるその部屋は、
学園のサロンとは空気が違っていた。
装飾は控えめだが格が高い。
壁には王家の紋章。
厚い絨毯。
低く灯るランプ。
そこに数人の令嬢が集まっている。
全員が上位貴族。
王家派の中心。
誰も無駄口を叩かない。
静かな緊張。
その中央に座っているのが、
エレノアだった。
背筋を伸ばし、
優雅に紅茶を持っている。
完璧な姿勢。
完璧な笑顔。
だが目は笑っていない。
一人の令嬢が口を開く。
「大夜会の日取りが正式に決まりました」
別の令嬢。
「全派閥参加です」
「婚約候補も全員」
「王子も出席されるそうです」
小さなざわめき。
エレノアはカップを置いた。
音も立てない。
そして静かに言った。
「終わらせます」
部屋が止まる。
全員がエレノアを見る。
誰も言葉を挟まない。
エレノアは続ける。
「大夜会で決まります」
「派閥も」
「婚約も」
「評価も」
少し間。
「そして」
目がわずかに細くなる。
「立場も」
一人の令嬢が小さく聞く。
「……例の方を、ですか?」
エレノアは微笑む。
柔らかい笑顔。
だが冷たい。
「敵にする必要はありません」
少し間。
「ただ」
ゆっくり言う。
「正しく評価されればいいのです」
沈黙。
意味は全員わかっている。
別の令嬢が低い声で言う。
「婚約候補から外す」
「社交評価を落とす」
「孤立させる」
もう一人。
「恥をかかせる」
エレノアは頷く。
「ええ」
机の上に席次表が広げられる。
大夜会の配置図。
名前が並んでいる。
エレノアが指で軽くなぞる。
「席順を操作します」
別の場所を指す。
「ここに配置」
「逃げ場はありません」
別の紙。
質問項目。
「質問を集中させる」
「政治の話題を出す」
「派閥の話を振る」
さらに。
「ダンスの順を変える」
「礼儀に厳しい方を当てる」
「作法を見られる位置に置く」
令嬢たちが頷く。
一人が言う。
「噂も追加します」
「婚約に不向き」
「政治判断しない」
「派閥に属さない」
「扱いにくい」
エレノアは止めない。
ただ微笑む。
「事実ですから」
部屋が静かに冷える。
エレノアは最後に言う。
「大夜会は最終評価です」
「ここで固定されます」
少し間。
「例外は残しません」
その瞬間。
空気がわずかに揺れる。
誰も気付かない。
だが空間の上に、
薄くルーンが浮かぶ。
円。
線。
配置図。
エレノアの位置が中心。
そこから矢印が伸びる。
ELIMINATION FLOW
文字が重なる。
SYSTEM表示。
ELIMINATION PLAN ACTIVE
次の行。
RIVAL ROUTE STABLE
さらに。
CORRECTION READY
ルーンがゆっくり回る。
エレノアは知らない。
令嬢たちも知らない。
だが世界はもう決めている。
排除ルート。
固定イベント。
エレノアが最後に言った。
「大夜会で終わります」
その言葉に重なるように、
ルーンの中心が赤く光った。