悪役令嬢は世界のバグを修正する
王宮魔法研究所。
城の奥にある、一般の貴族が入ることのない区画。
石造りの廊下。
窓は少ない。
外の光もほとんど入らない。
静かな場所。
だが奥の部屋だけは違った。
壁一面に並ぶ魔法陣。
光る文字。
浮かぶ記録板。
魔力で動く観測装置。
研究員たちが集まっている。
中央の机の上に浮かんでいるのは、
一つの記録表示。
名前。
LETICIA ALVERN
その下に数値が並ぶ。
戦闘能力 SS
魔力制御 SS
干渉耐性 S
社交適性 D
政治適性 E
婚約適性 D
研究員の一人が言う。
「最新ログです」
別の研究員が画面を拡大する。
大会記録。
結界干渉。
ルーン解析。
夜会予定。
全部が並んでいる。
若い研究員が眉をひそめる。
「……極端ですね」
「能力だけなら王国上位です」
「ですが」
少し間。
「社交評価が低すぎる」
別の研究員が頷く。
「孤立ルートに入っています」
「派閥なし」
「婚約候補評価低」
「噂拡散済み」
「排除条件は揃っています」
奥に立っていた上司が口を開く。
年配の魔導士。
無表情。
「夜会で決まるか」
研究員が答える。
「はい」
表示を操作する。
空中にルーンが浮かぶ。
イベント構造。
大夜会。
配置図。
派閥。
候補。
評価の流れ。
中央に大きな円。
FINAL SOCIAL EVENT
そこから伸びる矢印。
RIVAL ROUTE
ELIMINATION FLOW
研究員が言う。
「現在、排除ルート優勢です」
「大夜会で固定されます」
別の研究員が聞く。
「補正は入れますか」
部屋が少し静かになる。
上司は少し考える。
ルーンを見る。
揺れている。
ほんのわずか。
別の線が入り込んでいる。
CECILIA
その文字が重なっている。
さらに細い線。
LETICIA
上司が低く言う。
「補正は?」
研究員が答える。
「最小限に」
「過干渉は不安定になります」
別の研究員。
「現在、抵抗ログあり」
表示が変わる。
EVENT RESISTANCE
SCRIPT ERROR
FLOW DEVIATION
上司の目が細くなる。
「原因」
研究員。
「社交外変数」
「アルヴェルン家長女」
「セシリア」
少し間。
「想定外の支持回復」
上司はゆっくり頷く。
「……観測優先」
研究員が確認する。
「補正は?」
上司は短く言った。
「最小限」
少し間。
「夜会の結果を見る」
研究員たちが操作を続ける。
ルーンが回る。
配置が変わる。
だが完全には戻らない。
空間に文字が出る。
SYSTEM
STABILITY SUPPORT
次の行。
CORRECTION LIMIT
さらに。
OBSERVATION MODE
研究員が小さく言う。
「まだ安定します」
別の研究員。
「排除ルート維持」
上司が最後に言った。
「大夜会で終わる」
ルーンが光る。
中心が赤くなる。
ELIMINATION FLOW
その文字が、
ゆっくり固定されかけていた。