悪役令嬢は世界のバグを修正する
王都騎士団本部。
厚い石壁の建物。
夜でも灯りが消えない場所。
上階の会議室。
長い机。
地図。
報告書。
武器ではなく、紙が並んでいる。
数人の騎士が座っていた。
全員、上位隊員。
空気は静かだが張り詰めている。
副官が書類を開く。
「対象の最新報告です」
机の中央に一枚の紙を置く。
名前が書かれている。
LETICIA ALVERN
隊長が目を落とす。
副官が読み上げる。
「魔法大会優勝」
「戦闘評価 SS」
「制御評価 SS」
「結界干渉確認」
「研究所監視対象」
少し間。
次の行を読む。
「社交評価 D」
「婚約候補 低」
「派閥所属 なし」
「現在、孤立傾向」
部屋が静かになる。
別の騎士が腕を組む。
「極端だな」
副官が頷く。
「能力だけなら王国上位です」
「だが社交適性が低い」
「貴族社会では危険位置」
隊長が紙をめくる。
夜会の資料。
王宮大夜会。
参加者一覧。
派閥配置。
婚約候補。
隊長が低く言う。
「大夜会か」
副官が答える。
「はい」
「王家主催」
「全上級貴族参加」
「婚約候補全員」
「派閥代表参加」
少し間。
「最終評価の場です」
別の騎士が言う。
「ここで決まるな」
副官が頷く。
「はい」
「婚約」
「派閥」
「立場」
「評価」
「全部固定されます」
沈黙。
隊長が書類を閉じる。
副官が少し迷ってから言う。
「……対象ですが」
隊長が視線を上げる。
副官。
「拘束対象に入れますか」
部屋の空気が少し変わる。
別の騎士が小さく言う。
「危険度は高い」
「制御不能の可能性あり」
「研究所も監視中」
副官が続ける。
「孤立しています」
「婚約なし」
「派閥なし」
「保護もなし」
少し間。
「今なら動けます」
隊長はすぐには答えない。
窓の外を見る。
夜の王都。
灯りが遠くに並んでいる。
ゆっくり言う。
「……まだだ」
副官が聞き返す。
「まだ、ですか」
隊長は頷く。
「夜会を見る」
静かな声。
だがはっきりしている。
「大夜会で決まる」
副官が目を細める。
「評価が落ちれば」
別の騎士。
「婚約なしなら」
副官。
「派閥なしなら」
隊長が言う。
「その時判断する」
少し間。
「今は動くな」
沈黙。
副官が小さく息を吐く。
「……夜会で分岐か」
隊長が短く答える。
「ああ」
机の上の資料。
大夜会の配置図。
その上に一瞬だけ、
薄い光が走る。
誰も気付かない。
円。
線。
配置。
イベント構造。
中央に文字。
FINAL SOCIAL EVENT
そこから分かれる線。
PROTECTION
OBSERVATION
ELIMINATION
線が揺れる。
まだ決まっていない。
空間に一瞬だけ表示。
SYSTEM
DECISION PENDING
次の行。
EVENT BRANCH READY
すぐ消える。
副官が小さく言う。
「夜会で決まるな」
隊長は短く答えた。
「ああ」
「分岐点だ」