悪役令嬢は世界のバグを修正する
王宮大ホール。
王都で最も大きな建物の中心。
高い天井。
無数のシャンデリア。
磨き上げられた床。
壁一面の金装飾。
巨大な扉が開かれ、
次々に貴族たちが入ってくる。
侯爵家。
公爵家。
伯爵家。
騎士団幹部。
魔導院上位。
王家派。
騎士派。
魔法派。
古貴族派。
新貴族派。
全員が集まっている。
今夜は特別だった。
王都大夜会。
年に一度。
だが今年は違う。
最終評価の夜。
婚約の夜。
派閥決定の夜。
将来が決まる夜。
ホールの空気が張り詰めている。
笑っている者もいる。
だが全員が周囲を見ている。
位置を確認する。
誰と話すか考える。
誰に話しかけないか決める。
静かな戦場。
入口の近くでざわめきが起きる。
視線が集まる。
「あ…」
「来た」
「例の子」
「満点優勝」
「魔法大会の」
「でも社交…」
「孤立してるって」
「婚約候補から外れたらしい」
「研究所が見てるとか」
「騎士団も」
声が広がる。
入口に立っているのは、
アルヴェルン家。
先に入るのはセシリア。
完璧な礼。
完璧な歩き方。
ドレスも完璧。
視線が変わる。
「さすが」
「姉は強い」
「社交は本物」
だが次の瞬間、
視線がその後ろに動く。
レティシア。
静かに歩いている。
姿勢は正しい。
ドレスも問題ない。
だが空気が違う。
誰もが見る。
評価する。
測る。
「……来た」
「本当に来た」
「逃げなかった」
「度胸ある」
「でも」
「ここじゃ無理」
レティシアは何も言わない。
ただ歩く。
ホールの中央へ進む。
その瞬間。
遠くから視線が刺さる。
エレノア。
ホールの中心近く。
王家派の位置。
完璧な位置。
完璧な立ち姿。
完璧な笑顔。
だが目だけが動く。
レティシアを見る。
ほんの一瞬。
評価する目。
計算する目。
そして微笑む。
何も言わない。
だが意味は明確。
――ここで終わり
別の場所。
セシリアが小さく息を吐く。
周囲を見る。
派閥配置。
候補位置。
王族の場所。
騎士団の位置。
全部確認する。
小さく言う。
「……配置が早い」
レティシアが横で止まる。
「何が?」
セシリアは小声。
「出来すぎてる」
少し間。
「もう始まってる」
音楽が流れ始める。
楽団。
笑い声。
会話。
動き出す人の流れ。
夜会開始。
その瞬間。
レティシアの視界にノイズが走る。
光が揺れる。
音が少し遅れる。
空間が歪む。
ほんの一瞬。
ホールの上に、
薄い線が浮かぶ。
円。
配置。
席順。
人の位置。
見えない構造。
文字が出る。
SYSTEM
FINAL EVENT ACTIVE
次の行。
SOCIAL SCRIPT RUNNING
さらに。
ROUTE FIXING START
表示が揺れる。
消える。
レティシアは目を細める。
ホール全体を見る。
人の動き。
視線。
距離。
立ち位置。
全部が意味を持って見える。
まだ薄い。
だが確実にある。
見えない配置図。
見えない流れ。
見えないルート。
レティシアが小さく言う。
「……動いた」
セシリアが振り向く。
「何が?」
レティシアは答えない。
ホールの中心を見る。
エレノア。
その周りに集まる令嬢。
候補たち。
王族の位置。
全部が綺麗に並んでいる。
まるで最初から決められていたみたいに。
レティシアは静かにつぶやく。
「構造」
少し間。
「起動してる」