悪役令嬢は世界のバグを修正する
ざわめきが続いていたはずのサロン。
だが、
いつの間にか静かになっている。
誰も声を上げない。
誰も仕掛けない。
誰も近づかない。
空気だけが張りつめている。
レティシアはホールの中央から少し外れた位置に立っている。
前回と同じ場所。
同じ距離。
同じ配置。
そのはずだった。
だが視界のルーンが違う。
POSITION MAP
中央
↓
上位
↓
中位
↓
外側
↓
孤立
前回はここだった。
OUTER
ELIMINATION FLOW
だが今。
表示が更新される。
OUTER
↓
MIDDLE
↓
UPPER
光が一段上に動く。
RANK UPDATE
SOCIAL VALUE ↑↑
TOTAL ↑
派閥線が揺れる。
婚約線が揺れる。
評価線が一本ずつ上に上がる。
ルーンが震える。
SYSTEM
RANK CALCULATING…
止まる。
確定しない。
周囲の令嬢たちが、
距離を取ったまま立っている。
一人が小さく言う。
「……どうする?」
別の令嬢。
「仕掛ける?」
少し沈黙。
首を横に振る。
「無理よ」
さらに小声。
「全部答えるもの」
「減らない…」
「崩れない…」
別の令嬢がレティシアを見る。
「……変」
また別の声。
「怖い」
さらに。
「何聞いても正解する」
「罠にならない」
「落ちない」
空気が重くなる。
普通なら、
誰かが攻める。
誰かが誘導する。
誰かが評価を落とす。
だが今回は違う。
誰も動かない。
動けない。
理由は簡単。
全部正解している。
礼儀も。
政治も。
婚約も。
派閥も。
距離も。
順番も。
完璧すぎる。
評価を下げる理由がない。
レティシアは無表情のまま立っている。
視界にはルーン。
SOCIAL VALUE ↑↑
MARRIAGE VALUE ↑
FACTION VALUE ↑
TOTAL ↑
順位表示が揺れる。
RANK
7 → 5 → 4
止まる。
また揺れる。
4 → 3
ルーンが大きく歪む。
SYSTEM
RANK UPDATE ERROR
もう一度。
CALCULATING…
CALCULATING…
CALCULATING…
止まらない。
評価が固定できない。
中央の配置が空いている。
本来そこにいるはずの人物。
ELEANOR
RIVAL ROUTE
線が揺れる。
そこに、
別の線が重なる。
LETICIA
UNKNOWN
表示が重なる。
SYSTEM
POSITION CONFLICT
周囲の令嬢がまた小声で言う。
「……おかしい」
「孤立してたはず」
「なんで上に来てるの…」
「流れ変わってる…」
誰も近づかない。
だが、
誰も遠ざけない。
距離だけが曖昧になる。
孤立でもない。
中心でもない。
境界に立っている。
レティシアはルーンを見たまま、
心の中で言う。
(順番通り)
少し間。
(答えただけ)
表示を見る。
(条件通り)
線を見る。
(動いただけ)
順位表示がもう一度動く。
RANK
3
確定しない。
揺れる。
SYSTEM
FLOW UNSTABLE
彼女の目がわずかに細くなる。
(孤立じゃない)
少し間。
(中心でもない)
さらに小さく。
(中に入った)
ルーンが震える。
SOCIAL POSITION
UNKNOWN
その表示だけ、
消えない。