悪役令嬢は世界のバグを修正する
夜会は終盤に入っていた。
音楽は続いている。
談笑も続いている。
グラスの音も、
笑い声も、
何もかもがいつも通り。
本来なら、
ここで決まる。
最終判定。
順位固定。
婚約確定。
派閥固定。
そして――
排除イベント。
レティシアの視界に表示が出る。
FINAL PHASE
ELIMINATION EVENT
READY
前回のログが重なる。
席端へ移動。
評価低下。
婚約候補離脱。
孤立確定。
ELIMINATION FLOW
START
になるはずだった。
だが。
表示が止まる。
…
…
…
EXECUTEしない。
代わりに、
別の表示が出る。
RANK UPDATE
CALCULATING…
ルーンが揺れる。
配置が変わる。
外側にいた点が、
一段上に動く。
OUTER
↓
MIDDLE
↓
UPPER
さらに。
中央の円が揺れる。
CENTER POSITION
LOCK
解除される。
別の線が伸びる。
LETICIA
POSITION SHIFT
評価表示が更新される。
SOCIAL VALUE ↑
MARRIAGE VALUE ↑
FACTION VALUE ↑
TOTAL ↑
順位が動く。
5 → 4 → 3
止まらない。
2
中央の円に、
もう一本線が入る。
本来そこにある名前。
ELEANOR
その横に、
重なる表示。
LETICIA
CONFLICT
ルーンが大きく歪む。
SYSTEM
FLOW ERROR
もう一度表示。
ELIMINATION EVENT
…
…
NOT FOUND
沈黙。
夜会の空気が少しだけ止まる。
誰も気付かない。
だが、
配置が変わっている。
レティシアは、
孤立位置にいない。
中心に近い位置にいる。
令嬢たちが小声で言う。
「……あれ?」
「端じゃない…」
「なんで…?」
「順位…上がってる…?」
誰も説明できない。
誰も理由が分からない。
ルーンが崩れる。
SCRIPTが裂ける。
SOCIAL SCRIPT
ERROR
EVENT SCRIPT
ERROR
FORCED CORRECTION
START
光が走る。
線が戻される。
配置が固定される。
評価が再計算される。
だが、
止まる。
FAIL
FORCED CORRECTION FAILED
巨大ルーンにヒビが入る。
中心から、
ゆっくりと割れる。
SYSTEM
EVENT BREAK
SCRIPT FAILURE
UNKNOWN ROUTE ACTIVE
LETICIA
UNKNOWN
CECILIA
VARIABLE
WORLD SCRIPT
UNSTABLE
レティシアは動かない。
ただ、
ルーンを見ている。
心の中で、
静かに言う。
(順番を変えた)
線を見る。
条件を見る。
分岐を見る。
(条件をずらした)
評価を見る。
派閥を見る。
婚約を見る。
(だから)
少し間。
巨大ルーンが崩れる。
中心の円が割れる。
EVENT FLOWが切れる。
(壊れた)
彼女はゆっくり視線を上げる。
ホールの向こう。
最も目立つ場所。
エレノアが立っている。
いつもなら、
微笑んでいる。
完璧な笑顔。
揺れない表情。
だが今。
笑っていない。
ほんのわずか。
ほんの一瞬。
表情が止まっている。
目だけが動く。
レティシアを見る。
距離のある場所から。
何も言わない。
何もできない。
その瞬間。
最後の表示が出る。
SYSTEM
STRUCTURE DAMAGE DETECTED
WORLD SCRIPT
REPAIR REQUIRED
画面が暗くなる。
次の表示。
NEXT PHASE
FORCED CORRECTION
PREPARING
そして消える。
夜会の音楽だけが残る。
世界の奥で、
何かが本気で動き始めていた。