悪役令嬢は世界のバグを修正する
王都の朝は早い。
夜会の翌日。
王宮サロン、
学園サロン、
貴族街の茶会場。
どこでも同じ話題が出ていた。
「順位、出たらしいわよ」
「もう更新されたの?」
「王家主導だから早いのよ」
中央のテーブルに、
正式な評価表が置かれている。
金の縁取り。
王家印。
誰もが息を止めて見る。
上から順に名前が並んでいる。
RANK LIST
1位 エレノア・フォン・ルクレール
2位 ――――――
3位 レティシア・アルヴェルン
一瞬、
誰も声を出さない。
次の瞬間。
ざわめきが広がる。
「……え?」
「レティシア?」
「上がってる…?」
「あり得ない」
別の令嬢が身を乗り出す。
「孤立してたのに」
「夜会で落ちるはずだったでしょ」
「むしろ排除って話だったわよね」
別の席でも同じ声。
「全部成功したらしいわよ」
「質問も」
「婚約候補も」
「政治も」
信じられない、という空気。
だが、
数字は変わらない。
3位。
確かにそこにある。
少し離れた場所で、
貴族の一人が低く言う。
「アルヴェルン家が戻ったな」
別の者が答える。
「姉が動いた」
「妹も…変だが優秀だ」
評価表の下に、
小さな光が走る。
誰も見えない場所。
文字が浮かぶ。
SYSTEM
RESULT CONFIRMED
EVENT COMPLETE
文字が点灯する。
次の瞬間。
画面がわずかに乱れる。
RESULT…
CONF…
文字が途中で止まる。
ノイズが入る。
CONFIR…
止まる。
一瞬だけ、
表示が消える。
また出る。
RESULT CONFIRMED
EVENT COMPLETE
だが、
完全に揃わない。
文字の端が揺れている。
誰も気付かない。
サロンではまだざわめきが続いている。
「でも2位空白よ?」
「本当だ…」
「誰?」
「まだ確定してないの?」
「そんなことある?」
順位表の二位の場所。
名前が出ない。
薄く、
何かを書きかけた跡だけ残っている。
空白。
そのまま固定されている。
遠くの席で、
一人の老貴族が小さくつぶやく。
「……確定していない?」
誰も答えない。
評価表の奥で、
また文字が浮かぶ。
SYSTEM
RECHECK…
RECHECK…
RECHECK…
止まる。
表示が一瞬だけ赤くなる。
ERROR
すぐ消える。
誰も見ていない。
その頃、
アルヴェルン家の屋敷。
レティシアは窓の外を見ていた。
静かな朝。
何も変わらない。
だが、
視界の端にだけ表示が出る。
RESULT CONF…
…
NOISE
彼女は瞬きをしない。
心の中で小さく思う。
(まだ)
少し間。
表示がまた出る。
EVENT COMPLETE
だがその下に、
一瞬だけ別の文字。
LOCK…
NOT…
彼女の目がわずかに細くなる。
(確定してない)
窓の外の空が、
ほんのわずかだけ歪む。
誰にも見えない高さで、
小さなルーンが揺れていた。