悪役令嬢は世界のバグを修正する
夜会から数日。
王都の空気は、静かに変わっていた。
大きな事件は起きていない。
誰も騒いでいない。
だが、
どの茶会でも、
どのサロンでも、
同じ名前が出ていた。
アルヴェルン家。
昼の茶会。
上級令嬢たちが円卓を囲んでいる。
話題は当然のように夜会の結果だった。
「結局、順位出たわね」
「ええ……見たわ」
一人が小声で言う。
「レティシア、三位」
別の令嬢がすぐに返す。
「信じられない」
さらに別の声。
「孤立してたのに」
「排除されるって聞いてたのに」
沈黙。
そして誰かが言う。
「……全部成功したらしいわよ」
空気が変わる。
「質問も?」
「全部」
「婚約候補も?」
「全部」
「政治の話も?」
「全部」
一瞬、
誰も言葉を続けない。
やがて一人が苦笑する。
「妹は危険だが優秀…ってところね」
別の令嬢が頷く。
「姉が強すぎるのよ」
「セシリアが動いたって聞いたわ」
「社交全部回ったって」
「王家派とも話してた」
「騎士団とも」
「魔導院とも」
小さなため息。
「家は有力ね」
誰も否定しない。
サロンの隅で、
貴族たちが低い声で話している。
「アルヴェルンは切れんな」
「妹は扱いづらいが」
「姉がいる」
「婚約候補もまだ残ってる」
「夜会で外れなかった」
一人が言う。
「排除失敗だな」
誰も反論しない。
その瞬間、
見えない表示が浮かぶ。
SYSTEM
SOCIAL VALUE ↑
FACTION VALUE ↑
MARRIAGE VALUE ↑
王都の別のサロン。
王家派の集まり。
報告が回っている。
「評価は上昇」
「婚約候補残存」
「孤立解除」
「派閥未固定」
一人が眉をひそめる。
「未固定?」
返事。
「はい。どこにも入っていません」
別の声。
「だが評価は上がっている」
沈黙。
表示が浮かぶ。
FACTION STATUS
ROYAL → HOLD
KNIGHT → +
MAGIC → INTEREST
NEW NOBLE → APPROACH
線が動く。
王家派の線が止まる。
騎士派の線が少し近づく。
魔導院の線が光る。
新貴族の線が伸びる。
接続が増える。
固定されない。
SYSTEM
FACTION UPDATE
UNSTABLE
別の茶会。
新貴族側。
「接触していいと思う」
「危険だぞ」
「だが上がってる」
「婚約候補もいる」
「今切る理由がない」
小さな笑い。
「むしろ今が好機だ」
表示。
FACTION LINK +
さらに。
MARRIAGE CHECK
ELIGIBLE
王都全体で、
少しずつ流れが変わる。
排除対象だったはずの名前が、
評価対象に変わっていく。
誰も宣言しない。
誰も認めない。
だが、
空気だけが変わる。
見えない場所で、
文字が浮かぶ。
SYSTEM
ELIMINATION FLOW
FAILED
少し遅れて、
次の表示。
RECALCULATING…
止まる。
確定しない。
アルヴェルン家の屋敷。
レティシアはサロンの窓から外を見ていた。
遠くで鳥が鳴く。
静かな昼。
だが視界の端に表示が出る。
SOCIAL VALUE ↑
FACTION VALUE ↑
MARRIAGE VALUE ↑
数値がゆっくり上がる。
彼女はまばたきしない。
表示の下に、
別の文字が一瞬出る。
ELIMINATION ROUTE
NOT FOUND
彼女の心の中で、
小さく言葉が落ちる。
(排除…失敗)
少し間。
ルーンが薄く揺れる。
(でも)
表示が続く。
SCRIPT CHECK
RUNNING
彼女の目がわずかに細くなる。
(終わってない)