悪役令嬢は世界のバグを修正する
王立魔導学園・中央ホール。
年に数度しか使われない巨大な講堂に、
全学年の生徒が集められていた。
高い天井。
壁一面に刻まれた古い魔法紋章。
中央には巨大な魔法陣が床に描かれている。
普段の授業とは違う空気だった。
ざわめきが止まらない。
「なんで全員集合なんだ?」
「王族来るのか?」
「いや、年度末でもないし…」
貴族の生徒たちも、
平民の生徒たちも、
上級クラスも下級クラスも、
全員が同じ場所に立っている。
壇上には教師たち。
その後ろに、
魔導院のローブを着た人物。
さらに奥に、
騎士団の鎧姿。
そして、
王家紋章の旗。
空気が少し張り詰める。
やがて、
学園長が前に出た。
静かだがよく通る声。
「本日、全学年を集めた理由を説明する」
ざわめきが止まる。
全員が前を見る。
学園長は一度間を置き、
はっきり言った。
「今年度最大行事――」
さらに一拍。
「魔法大会の開催を正式に告知する」
一瞬の静止。
次の瞬間。
ホール全体が揺れた。
「来た…!」
「魔法大会!?」
「今年やるのか!」
「最大イベントじゃねぇか!」
「ここで順位決まるぞ」
「将来決まるって言われてるやつだろ」
「騎士団推薦出るんだよな」
「魔導院も来るって…」
ざわめきが止まらない。
学園長は続ける。
「本大会は王立魔導学園の公式行事であり、
王家・魔導院・騎士団の監督下で行われる」
空気がさらに重くなる。
教師が横から説明を引き継ぐ。
「参加は――全学年義務」
一部がどよめく。
「全員かよ…」
「逃げられないのか」
教師は淡々と言う。
「今年は特別措置として」
紙をめくる。
「他国留学生の参加を認める」
一瞬の沈黙。
すぐにざわめきが広がる。
「留学生?」
「どこの国だ?」
「まさか…」
別の教師が言う。
「魔導帝国より代表が来る」
空気が変わる。
はっきり分かるほど。
「……嘘だろ」
「帝国?」
「本気かよ」
「優勝候補来るじゃん…」
「勝てるわけないだろ」
「研究所も来るって話だぞ」
「騎士団も警備入るらしい」
壇上の騎士が一歩前に出る。
「大会期間中は騎士団が警備を担当する」
さらに、
魔導院の人物が静かに言う。
「魔導院も観測に入る」
ざわめきがさらに大きくなる。
「観測って何だよ」
「研究対象か?」
「今年おかしくない?」
「規模でかすぎるだろ」
その中で、
レティシアは何も言わず立っていた。
周囲の声が遠い。
視界の端が、
少しだけ揺れる。
床に描かれた魔法陣を見る。
普通はただの陣。
だが、
彼女には違って見える。
線が分かれる。
円が重なる。
記号が浮く。
配置が変わる。
ただの魔法陣じゃない。
構造。
式。
順番。
流れ。
その瞬間、
視界に文字が浮かぶ。
SYSTEM
EVENT FLAG
少し遅れて、
別の表示。
MAGIC EVENT
さらに。
START
レティシアの目がわずかに細くなる。
(また…)
魔法陣の線が、
ゆっくり回転して見える。
式が並び替わる。
順番が決まる。
位置が固定される。
(イベント)
誰にも聞こえない声で、
心の中でつぶやく。
(始まった)
壇上では説明が続いている。
「大会日程は後日発表する」
「各自準備を怠るな」
「本大会は――」
一瞬、
音がずれる。
世界が少し遅れる。
表示がまた出る。
MAGIC SCRIPT
ACTIVE
すぐ消える。
レティシアだけが、
床の魔法陣を見続けていた。
それはもう、
ただの魔法陣には見えなかった。
構造だった。
動いている式だった。
イベントだった。