悪役令嬢は世界のバグを修正する
中央ホールでの告知が終わったあとも、
生徒たちはすぐには解散しなかった。
あちこちで小さな集団ができ、
ざわめきが広がっている。
廊下。
サロン前。
階段の踊り場。
どこも同じ話題だった。
魔法大会。
年に一度の最大イベント。
貴族令嬢たちが集まって話している。
「優勝したら騎士団入りよね」
「ええ、推薦が出るって聞いたわ」
「魔導院からも声かかるって」
別の令嬢が小さく言う。
「王家に呼ばれる可能性もあるわよ」
少し空気が変わる。
「それ、本当?」
「過去にあったって聞いた」
「だから皆必死なのよ」
別の場所では男子生徒たち。
壁にもたれながら話している。
「結局あれだろ」
「出世イベント」
「勝ったやつが全部持ってくやつ」
「順位で人生決まるって先輩言ってた」
「騎士団、魔導院、王宮、全部ここで振り分け」
一人が苦笑する。
「社交より怖いな」
別の生徒が言う。
「今年は特にやばいらしいぞ」
「なんで?」
答える前に、
教師の声が聞こえた。
「集まっている者は聞きなさい」
廊下の端。
数人の教師が立っている。
周囲の生徒が自然と集まる。
教師は書類を見ながら言う。
「今回の大会は例年とは違う」
ざわめき。
「違う?」
「何が?」
教師は少し間を置いてから言った。
「今年は特別措置がある」
静かになる。
教師はゆっくり続ける。
「魔導帝国より留学生が参加する」
一瞬、
空気が止まる。
次の瞬間、
ざわめきが爆発した。
「……は?」
「帝国!?」
「嘘だろ」
「なんで来るんだよ」
「交流戦じゃないぞこれ」
令嬢たちも顔を見合わせる。
「帝国って……あの帝国?」
「古代魔法の研究してるところでしょ」
「天才ばっかりって聞くわ」
男子の一人が低く言う。
「勝てるわけないじゃん…」
別の生徒。
「優勝候補、最初から決まってるじゃん」
教師は淡々としている。
「本大会は国際交流を兼ねる」
「実力評価の意味も強い」
「魔導院も観測に入る」
さらにざわめき。
「観測って何だよ」
「研究対象扱いか?」
「今年マジでおかしい」
教師が最後に言う。
「軽い気持ちで出るな」
一拍。
「今年の大会は――」
静かに言う。
「選別だ」
誰もすぐに声を出せない。
重い空気のまま、
生徒たちは散っていく。
その中で、
レティシアは廊下の端に立っていた。
周囲の会話が遠い。
視界の端が少しだけ揺れる。
人の流れ。
位置。
距離。
会話の順番。
全部が線で見える。
床の上に、
薄く光が走る。
見えないはずの線。
構造。
配置。
その瞬間、
視界に文字が浮かぶ。
SYSTEM
EXTERNAL EVENT
レティシアの目がわずかに動く。
表示が続く。
CHECK RUNNING
FLOW UPDATE
さらに、
小さく追加される。
UNKNOWN FACTOR
彼女の胸の奥に、
嫌な感覚が落ちる。
(外…)
廊下の奥を見る。
誰もいない。
でも、
何かが入ってくる感じがする。
(外部…)
表示が一瞬だけ点滅する。
EXTERNAL EVENT
ACTIVE
すぐ消える。
周囲ではまだざわめきが続いている。
「帝国とか反則だろ」
「今年荒れるぞ」
「順位変わるな」
「誰が残るんだろ」
レティシアは何も言わない。
ただ、
廊下の先を見ていた。
まだ来ていない。
でも、
確実に来る。
そんな感じだけが、
はっきり残っていた。