悪役令嬢は世界のバグを修正する
学園サロン。
昼休み。
いつもより人が多い。
中央ホールでの告知以来、
学園中の空気が落ち着かない。
テーブルごとに集まりができ、
どこでも同じ話がされている。
魔法大会。
そして――魔導帝国。
令嬢たちの席。
紅茶を持ったまま、小声で話している。
「聞いた?」
「帝国の留学生来るって」
「さっき教師が言ってたわ」
別の令嬢が眉をひそめる。
「しかも一人じゃないらしいわよ」
「代表が来るって」
「代表って……優勝候補じゃないの?」
少し間。
さらに声が低くなる。
「帝国の天才が来るらしいわ」
空気が変わる。
「……誰?」
「名前は分からないけど」
「魔力が桁違いって」
「研究所がずっと観測してたって話」
別の令嬢が半笑いで言う。
「そんなの噂でしょ」
「帝国の天才とか毎年言ってるじゃない」
首を振る。
「今年は違うらしいの」
「古代魔法が使えるって」
その言葉で、
一瞬だけ沈黙が落ちた。
「……古代魔法?」
「そんなの本当にあるの?」
「禁術じゃないの?」
別の席では男子生徒たち。
椅子を引き寄せて話している。
「帝国のやつ来るってよ」
「終わったな今年」
「優勝取られるだろ」
一人が笑う。
「どうせ噂だろ」
別の生徒が首を振る。
「いや、違う」
「研究所が来るって」
空気が少し変わる。
「は?」
「研究所?」
「なんで大会に?」
声を潜める。
「観測だって」
「今年は観測入るって教師が言ってた」
別の生徒が顔をしかめる。
「観測って何だよ」
「研究対象扱いか?」
さらに小さい声。
「構造不安定らしい」
「前の夜会、ログ崩れたって噂」
「だから確認するって」
沈黙。
誰もすぐには笑わない。
サロンの端の席。
レティシアが一人で座っている。
紅茶は冷めている。
周囲の声が遠い。
噂が重なって聞こえる。
帝国。
天才。
古代魔法。
観測。
研究所。
構造。
ログ。
その瞬間、
視界の端が歪む。
サロンの床に描かれた装飾模様。
ただの模様のはず。
だが、
線が動く。
円が重なる。
配置が並び替わる。
式のように見える。
その上に、
文字が浮かぶ。
SYSTEM
HIGH RISK EVENT
レティシアの目がわずかに細くなる。
表示が続く。
EXTERNAL FACTOR
CHECK RUNNING
さらに、
小さく追加される。
OBSERVATION
ACTIVE
彼女の指が少しだけ止まる。
(観測…)
遠くで誰かが言う。
「今年やばいぞ」
「普通の大会じゃない」
「絶対何かある」
別の声。
「帝国来て研究所来て騎士団来て」
「何のイベントだよ」
笑い声が出る。
でも長く続かない。
レティシアの視界に、
また文字が出る。
STRUCTURE CHECK
MAGIC FLOW
SCAN
その下に、
一瞬だけ別の表示。
UNKNOWN PATH
すぐ消える。
彼女は何も言わない。
ただ、
サロンの床を見る。
模様が、
構造に見える。
会話が、
順番に見える。
人の位置が、
配置に見える。
心の中で、
静かに思う。
(来る)
少し間。
(管理側も来る)
表示が最後に出る。
HIGH RISK EVENT
ACTIVE
すぐ消えた。
サロンのざわめきだけが残る。