悪役令嬢は世界のバグを修正する
ヴェルン家の屋敷。
夕方のサロン。
大きな窓から差し込む光が薄くなり、
部屋には静かな灯りがともっている。
テーブルの上には、
学園から届いた書類が広げられていた。
大会規定。
参加名簿。
日程表。
推薦制度の説明。
全部に目を通しているのはセシリアだった。
真剣な顔。
いつもの社交用の笑顔はない。
向かいの席で、
レティシアが静かに座っている。
紅茶を持ったまま、
何も言わない。
紙をめくる音だけが続く。
しばらくして、
セシリアが小さく息を吐いた。
「……思ったより大きいわね」
レティシアが目だけ向ける。
セシリアは書類を指で押さえたまま言う。
「今年の魔法大会」
少し間。
「ただの行事じゃない」
レティシアは首を少し傾ける。
「違うの?」
セシリアは頷く。
真面目な声で言う。
「超重要イベントよ」
紙を指で叩く。
一つずつ説明するように言う。
「大会の結果で評価が更新される」
「家格も変わる」
「派閥の位置も動く」
一拍置く。
「全部動くの」
レティシアは静かに聞いている。
セシリアは続ける。
「優勝したら騎士団推薦」
「上位なら魔導院推薦」
「王宮に呼ばれる可能性もある」
さらに低い声になる。
「逆に落ちたら終わり」
空気が少し重くなる。
セシリアは紅茶を持ったまま言う。
「社交も大事だけど」
少し間。
「魔法大会の方が怖い」
レティシアの目が少し動く。
「社交より?」
セシリアは迷わず答える。
「ええ」
はっきり言う。
「社交より怖い」
静かな声。
「ここで将来決まるから」
レティシアは少し考える。
言葉を探すみたいに間を置く。
それから、
小さく言う。
「イベントっぽい」
セシリアが止まる。
「……何?」
レティシアはいつもの無表情。
「順位決まる」
「評価動く」
「派閥変わる」
少し考える。
「イベント」
セシリアは数秒黙る。
それから、
ふっと笑う。
「……そうね」
肩をすくめる。
「イベントよ」
紅茶を一口飲む。
「この学園、そういう場所だもの」
レティシアは窓の方を見る。
外は少し暗くなっている。
空がゆっくり夜に変わっていく。
その瞬間、
視界の端が揺れる。
サロンの床。
テーブル。
椅子。
セシリアの位置。
自分の位置。
全部が線で見える。
配置になる。
流れになる。
順番になる。
その上に、
文字が浮かぶ。
SYSTEM
MAGIC FLOW
START
レティシアの目がわずかに細くなる。
表示が続く。
EVENT STRUCTURE
ACTIVE
さらに、
小さく追加される。
SOCIAL FLOW
MATCH
彼女の指が止まる。
(同じ…)
夜会の時と同じ感覚。
順番がある。
条件がある。
位置がある。
評価が動く。
(社交と…)
少し間。
(同じ構造)
セシリアが気付く。
「どうしたの?」
レティシアは少しだけ考える。
言葉にできない。
だから短く言う。
「似てる」
セシリアが首を傾ける。
「何が?」
レティシアは窓を見たまま答える。
「社交と」
少し間。
「大会」
セシリアは眉をひそめる。
「……同じってこと?」
レティシアは小さく頷く。
「うん」
その瞬間、
表示がもう一度出る。
MAGIC SCRIPT
LOADING
一瞬だけ、
文字が乱れる。
UNKNOWN PATH
すぐ消える。
レティシアは何も言わない。
ただ、
空を見ていた。
まだ何も起きていない。
でも、
もう動いている。