悪役令嬢は世界のバグを修正する
王都・騎士団本部。
重い扉の向こうにある会議室には、
無駄な装飾が一切なかった。
長い机。
壁に掛けられた王家の紋章。
並ぶ鎧。
空気は静かで、張り詰めている。
机の上には資料。
魔法大会の警備計画。
参加者名簿。
観測指示書。
数名の騎士が席についていた。
その中央に隊長が座っている。
短く言う。
「開始する」
紙をめくる音。
副官が立ち上がる。
「魔法大会の警備計画について報告します」
淡々と読み上げる。
「今年度大会は特別警備指定」
「理由」
指で紙を押さえる。
「他国留学生参加」
「王族観覧予定」
「魔法研究所観測参加」
少し間。
最後に言う。
「構造不安定のため」
空気がわずかに重くなる。
別の騎士が顔を上げる。
「……構造不安定、か」
副官は頷く。
「前回社交イベントにて異常ログ」
「補正失敗」
「ルート逸脱」
「未修復」
机の中央に資料が置かれる。
赤い印がついている。
UNKNOWN PATH
隊長がそれを見る。
しばらく無言。
やがて言う。
「大会警備を強化する」
副官が即答。
「了解」
紙をめくる。
「会場結界二重化」
「騎士配置増員」
「観測室護衛追加」
「緊急介入班待機」
別の騎士が聞く。
「そこまで必要か」
副官が視線を下げる。
「研究所からの要請です」
少し間。
隊長が言う。
「理由は」
副官が資料を確認する。
そして読み上げる。
「異常変数の再観測」
空気が止まる。
隊長の目が細くなる。
「対象は」
副官は一瞬だけ迷う。
だが隠さない。
「大会参加者の一名」
紙を回す。
名前が見える。
LETICIA
誰も声を出さない。
隊長がゆっくり言う。
「参加するのか」
副官。
「はい」
「本人も出場予定」
別の騎士が低く言う。
「危険度は」
副官。
「上昇中」
紙をめくる。
「社交イベントにて排除失敗」
「評価上昇」
「ルート逸脱」
「補正未完了」
さらに。
「研究所指定監視対象」
机の上に、
新しい指示書が置かれる。
赤い印。
OBSERVATION TARGET
LETICIA
隊長はそれを見たまま言う。
「拘束命令は」
副官。
「出ていません」
少し間。
「現段階では」
「監視のみ」
隊長は目を閉じる。
数秒。
それから言う。
「監視継続」
副官が頷く。
「了解」
隊長は続ける。
「大会中は常時確認」
「異常発生時」
一拍。
「即介入」
副官がはっきり答える。
「はい」
机の中央にある魔法表示が光る。
文字が浮かぶ。
INTERVENTION
STANDBY
さらに更新。
INTERVENTION READY
副官がそれを見る。
小さく言う。
「……危険扱いですね」
隊長は否定しない。
短く言う。
「例外だ」
静かな声。
「例外は放置しない」
表示がゆっくり点滅する。
INTERVENTION READY
そのまま光が消える。
会議室の中には、
重い沈黙だけが残った。