悪役令嬢は世界のバグを修正する
王都郊外。
石造りの巨大建造物が、遠くからでもはっきり見えた。
王都最大の施設――
魔法大会専用闘技場。
円形の外壁は城壁のように高く、
その上空を覆うように、淡く光る膜が張られている。
結界。
常時展開されている防護式だ。
近づくにつれて、その大きさが分かる。
空を覆うほどの結界。
街一つ入るほどの敷地。
そして門の前には、騎士団の列。
槍と鎧が整然と並び、
入場する貴族や生徒を一人ずつ確認している。
「すご……」
誰かが呟いた。
別の生徒。
「今年警備多くないか?」
「王族来るらしいぞ」
「魔導院も観測席出してるって」
ざわめきが広がる。
門をくぐる。
その瞬間、
視界が開けた。
巨大な闘技場。
何層にも重なる観客席。
上層には貴族席。
さらに上に王族席。
中央奥に魔導院の観測席。
周囲の通路には騎士団。
完全に管理された空間。
そして――中央。
地面一面に刻まれた、
巨大な魔法陣。
幾重にも重なる円。
放射状の線。
細かいルーン。
複雑すぎて、一目では理解できない構造。
生徒たちが息をのむ。
「でか……」
「これ全部魔法陣?」
「大会ってこんな規模だったか?」
空を見上げる。
上空。
結界がゆっくり脈動している。
薄い光の膜が、空全体を覆っている。
その内側に、さらに別の魔法陣が重なっていた。
普通の視界なら、
ただの光。
ただの魔法。
だが――
レティシアには違った。
彼女の視界で、
世界が切り替わる。
魔法陣が、
線になる。
線が、
配置になる。
配置が、
式になる。
式が、
流れになる。
無数のルーンが空間に浮かび上がる。
地面の魔法陣。
結界の魔法陣。
観客席の魔法陣。
王族席の魔法陣。
観測席の魔法陣。
全部つながっている。
全部流れている。
全部計算されている。
表示が浮かぶ。
MAGIC FIELD
ACTIVE
さらに別の表示。
STRUCTURE
STABLE
FLOW
RUNNING
彼女はゆっくり瞬きをする。
もう一度見る。
やっぱり見える。
魔法じゃない。
構造。
式。
配置。
順序。
コード。
彼女の心の中で、小さく言葉が浮かぶ。
(……これ)
少し間。
(会場じゃない)
視線を中央へ向ける。
巨大魔法陣。
さらに上空の結界。
さらに外側の結界。
さらにその外の線。
全部つながっている。
彼女は小さく呟いた。
「装置だ」
誰にも聞こえない声。
表示が一瞬だけ揺れる。
MAGIC FIELD
ACTIVE
STRUCTURE
ACTIVE
SYSTEM
LINKED
すぐ消える。
彼女は目を細める。
(会場じゃない)
(これは)
少し間。
(動かすための場所だ)
風が吹く。
結界がわずかに波打つ。
遠くの観測席で、魔法式が光る。
騎士団が位置を変える。
何かが始まろうとしている。
まだ試合は始まっていない。
だが。
装置はもう動いている。