悪役令嬢は世界のバグを修正する
開始の号令と同時に、
闘技場中央の巨大魔法陣が変形した。
円が分割される。
線が再配置される。
一つの大陣が、
複数の小規模陣へと切り替わる。
観客席からざわめき。
「形式が違う?」
「初戦ってこんなんだっけ?」
教師が前に出る。
結界に声が拡張される。
「第1試合は――精密制御試験とする」
一瞬の静寂。
次に、どよめき。
「精密制御?」
「攻撃じゃないのか?」
「初戦でそれ?」
教師は続ける。
「指定された魔法陣を起動し、維持せよ」
「魔力の出力ではなく、制御精度を評価する」
地面の小魔法陣が一斉に光る。
参加者一人につき一つ。
円は単純。
だが内部構造は異様に細かい。
細線が何重にも重なっている。
分岐。
接続。
微細な調整式。
教師が指し示す。
「この陣を崩さず維持すること」
「出力過多、構造崩壊、流れの乱れは即失格」
さらに一言。
「補助は禁止」
観客席がざわつく。
「これ難しくないか?」
「普通の魔法よりきついぞ」
「細かすぎる…」
参加者たちの表情が変わる。
焦り。
緊張。
計算。
誰もが魔法陣を見つめる。
だが。
レティシアの視界だけが違う。
魔法陣が、
展開される。
線になる。
分岐になる。
順序になる。
流れになる。
表示が浮かぶ。
MAGIC STRUCTURE VIEW
さらに。
CONTROL TEST
ACTIVE
さらに。
FLOW
VARIABLE
SCRIPT
LIMITED
彼女は静かに目を細める。
(……制御)
足元の魔法陣を見る。
通常なら「形を保つ」だけの試験。
だが彼女には違って見える。
式の並び。
処理順。
入力と出力。
どこで魔力を流し、
どこで止め、
どこで分岐するか。
全部見える。
(簡単じゃない)
少し間。
(でも…)
視線を動かす。
周囲の参加者。
魔力を流そうとして、
わずかに遅れる。
線を読み違える。
順番を間違える。
表示がちらつく。
FLOW
UNSTABLE
ERROR
WARNING
すでに崩れかけている者もいる。
レティシアは小さく息を吐く。
(順番通りにやればいい)
さらに思考が進む。
(いや)
少し間。
(順番を理解してればいい)
表示がわずかに変わる。
SCRIPT
VISIBLE
ORDER
PREDICTABLE
彼女の中で確信が生まれる。
(これ…)
ゆっくりと。
(テストじゃない)
視線を上げる。
観測席。
騎士団席。
王族席。
全部がこちらを見ている。
(確認してる)
表示が一瞬だけ重なる。
CHECK
RUNNING
TARGET
LETICIA
彼女の指先がわずかに動く。
(制御じゃない)
少し間。
(測定だ)
教師の声が響く。
「――開始」
その瞬間。
全ての魔法陣が同時に起動した。