悪役令嬢は世界のバグを修正する
開始の号令と同時に、最初の生徒が前に出る。
闘技場中央。
巨大魔法陣の上。
指定位置に立ち、深く息を吸う。
「――展開」
詠唱が始まる。
だが。
一拍、遅れる。
魔法陣の一部が光り損ねる。
線がつながらない。
わずかなズレ。
だが、それだけで――
式が崩れる。
光が歪む。
発動した魔法は形を保てず、
空中でほどけるように消えた。
観客席からざわめき。
「今のでもすごくないか?」
「いや、難易度が高すぎる」
「タイミング合ってなかったな」
表示が浮かぶ。
CONTROL
C
次の生徒。
今度は詠唱は速い。
正確。
だが――
構造がずれる。
線の接続順が違う。
発動はする。
だが魔法が歪む。
威力が落ちる。
持続しない。
崩れる。
表示。
CONTROL
B-
観客席。
「十分だろ…」
「いや、満点は無理だな」
「これ完璧にやるやついるのか?」
さらに次。
上級生。
詠唱は完璧に近い。
魔力も安定。
構造もほぼ正しい。
だが――
ほんの一瞬。
順序がズレる。
発動は成功。
だがわずかなノイズ。
表示。
CONTROL
B
観客席からため息。
「惜しい…」
「ほぼ完璧じゃん」
「でも満点じゃないのか」
ざわめきが広がる。
誰もが理解し始める。
難易度が異常だと。
その頃。
魔法研究所・観測室。
ログが流れる。
MAGIC FLOW
STABLE
STRUCTURE
ACTIVE
次々に記録される試行。
そして。
評価とは別に、
別の数値が表示される。
ERROR RATE
HIGH
研究員が眉をひそめる。
「誤差が大きい…」
別の研究員。
「人間の反応速度じゃ追いつかない」
さらに。
「詠唱と構造の同期がズレてます」
主任は静かに画面を見る。
「当然だ」
短く言う。
「この構造は人間向けじゃない」
研究員が息を呑む。
「では、これは…」
主任は答えない。
ただ表示を見続ける。
ERROR RATE
HIGH
CONTROL
C〜B
FLOW
STABLE
STRUCTURE
FIXED
闘技場。
次の生徒が呼ばれる。
誰もが同じ壁にぶつかる。
遅れる。
ズレる。
崩れる。
どれだけ優秀でも、
完全には届かない。
観客席の誰かが呟く。
「……無理じゃないか?」
その言葉は小さい。
だが。
空気を変えるには十分だった。
完璧は存在しない。
この場においては。
――少なくとも、
普通の人間には。