悪役令嬢は世界のバグを修正する
ざわめきが止まらない。
観客席。
生徒たちが立ち上がる。
「今何した?」
「見えたか?」
「いや、全然…」
「詠唱してないよな?」
「なのに発動してた…?」
理解が追いつかない。
見えていたのは結果だけ。
過程が存在しなかった。
一人の生徒が小さくつぶやく。
「……あれ、魔法か?」
誰も答えられない。
教師席。
空気が一変していた。
年配の教師が無言で立ち上がる。
目は闘技場中央に固定されたまま。
「……記録しろ」
低い声。
隣の教師がすぐに反応する。
「はい」
記録用魔法陣が展開される。
映像ではない。
構造の記録。
流れの記録。
だが――
術式が一瞬止まる。
「……記録、抜けています」
別の教師が眉をひそめる。
「何が?」
「発動過程が…ありません」
沈黙。
最初から“結果しか存在しない”ようなログ。
教師が低く言う。
「……異常だ」
騎士団席。
すでに判断は下されていた。
副官が即座に報告する。
「対象、異常行動確認」
表示が浮かぶ。
TARGET
LETICIA
ANOMALY
DETECTED
副官の声は冷静だった。
だがわずかに硬い。
「制御精度、異常値」
「誤差ゼロ」
「遅延なし」
別の騎士が低く言う。
「あり得るのか」
副官。
「通常は不可能です」
表示が更新される。
CONTROL
PRECISION
ABNORMAL
隊長が口を開く。
短く。
「危険度」
副官は即答する。
「上昇」
表示が変わる。
RISK
LEVEL
UP
INTERVENTION
STANDBY
騎士の一人が呟く。
「今なら…止められるか」
隊長は首を振る。
「まだだ」
視線は動かさないまま。
「観測継続」
「証拠を積め」
副官がうなずく。
「監視強化」
表示が固定される。
ANOMALY
CONFIRMED
MONITOR
ENHANCED
闘技場中央。
歓声の中。
レティシアだけが静かに立っている。
その姿を、
全ての視線が追っていた。
評価ではない。
賞賛でもない。
それは――
警戒。
そして、
理解できないものへの恐怖だった。