悪役令嬢は世界のバグを修正する
闘技場。
熱気が、最初の試合とは比べものにならないほど膨れ上がっていた。
魔法の衝突音。
歓声。
ざわめき。
それらすべてが、途切れることなく押し寄せる。
試合は止まらない。
間もなく次。
終わればすぐ次。
一切の間を置かず、
トーナメントは加速していく。
まるで、
“決められた順序”をなぞるように。
レティシアの試合。
開始――
その瞬間、
すでに終わっている。
詠唱なし。
遅延なし。
構築時間ゼロ。
相手の魔法は発動前に崩壊し、
防御も成立しない。
結果だけが残る。
審判の声が、遅れて響く。
「勝者、レティシア!」
歓声が爆発する。
だがその中に、
理解の色はほとんどない。
「今の…何?」
「見えなかった」
「詠唱してないよな?」
ざわめきが残るまま、
次の試合へ進む。
カイル。
彼はゆっくりと歩き出す。
無駄のない動き。
視線はまっすぐ。
短い詠唱。
その瞬間。
空気が変わる。
魔力が、
“質量”を持ったかのように重くなる。
圧。
場を押し潰すような密度。
発動。
爆発。
正面から、
相手の魔法を叩き潰す。
構造ごと圧壊する。
結果。
圧倒的勝利。
観客席がどよめく。
「……強い」
「今の、格が違う」
「さっきのと同じくらい…いや」
「別格だ」
試合が進む。
またレティシア。
また瞬殺。
またカイル。
また圧勝。
繰り返される。
一切の例外なく。
誰も止められない。
誰も並べない。
観客の声が変わっていく。
「強すぎる…」
「レベルが違う」
「他と比べる意味ないだろ」
「もう決まってるじゃん」
「別格が二人いる」
視線が自然と集まる。
レティシア。
カイル。
その二人だけが、
明確に“別の領域”にいる。
他の参加者は、
すでに戦いの中心ではなかった。
教師席。
誰も軽口を叩かない。
騎士団席。
視線が固定される。
研究所観測席。
記録が止まらない。
むしろ、
加速している。
トーナメント表が更新される。
一戦。
また一戦。
名前が消える。
勝者だけが残る。
まるで、
不要な要素を削除していくように。
表示が浮かぶ。
TOURNAMENT FLOW
ADVANCE
レティシアは静かに立っている。
その視界。
ただのトーナメント表ではない。
配置。
順序。
進行。
分岐。
すべてが見えている。
(同じ)
試合順。
対戦順。
進行順。
すべて固定。
(順番通り)
視線をわずかに動かす。
残っている名前。
自分。
そして――
カイル。
表示が一瞬だけ揺れる。
NEXT
MATCH
PREDICT
KYLE
vs
LETICIA
彼女は小さく息を吐く。
(……来る)
それは予測ではない。
確定した順序。
確定したイベント。
だが――
その奥。
ほんのわずかに、
異物が混じる。
表示が乱れる。
UNKNOWN PATH
ACTIVE
一瞬だけ光り、
すぐに消える。
誰も気づかない。
だが。
流れはもう、
完全ではない。
トーナメントは進んでいる。
順番通りに。
だが同時に、
“順番から外れ始めてもいる”。
そして。
すべての視線が、
次の試合へと向かう。
――決戦へ。