悪役令嬢は世界のバグを修正する
闘技場中央。
次の試合が開始される。
レティシアが一歩前に出る。
対戦相手はすでに構えている。
詠唱を始める。
防御を展開する。
攻撃を準備する。
――正しい手順。
だが。
レティシアは動かない。
詠唱しない。
構築もしない。
ただ、
視線だけがわずかに動く。
流れをなぞるように。
(ここ)
(次)
(分岐)
(同時)
それだけ。
思考すら介在しない。
その瞬間。
試合が終わった。
音がない。
光も残らない。
ただ、
相手の魔法が“成立しない”。
発動前に崩れる。
構造が断たれる。
防御は間に合わない。
結果だけが残る。
審判が遅れて叫ぶ。
「勝者、レティシア!」
歓声が上がる。
だがその中に、
理解はない。
「……見えたか?」
「いや…何も」
「今、何した?」
「詠唱してないよな?」
観客の声が重なる。
戸惑いが広がる。
次の試合。
またレティシア。
開始。
――終了。
さらに短い。
さらに速い。
さらに無駄がない。
その周囲。
同時に魔法が展開される。
一つではない。
二つ。
三つ。
四つ。
増えている。
すべて同時。
すべて干渉なし。
すべて完全同期。
表示が浮かぶ。
CONTROL
SS
ERROR
0
PROCESS SPEED
↑
観客のざわめきが、
一段低くなる。
「……もう見えない」
「さっきより速くなってないか?」
「何してるのか分からない」
「魔法…なのか?」
恐怖に近い感情が混じる。
教師席。
記録用の魔法陣が回転している。
だが。
一人の教師が呟く。
「……抜けている」
隣の教師が眉をひそめる。
「何が?」
「過程だ」
表示されたログ。
開始。
結果。
その間が存在しない。
教師の声が低くなる。
「記録不能域に入っている…」
沈黙。
誰も否定しない。
闘技場中央。
レティシアは静かに立っている。
視界にはすべてが見えている。
ルーン。
線。
流れ。
順序。
(遅い)
周囲の魔法が、
すべて“遅く”見える。
(無駄が多い)
順番が違う。
処理が重い。
だから、
最短にするだけ。
それだけで終わる。
表示が一瞬だけ強く光る。
CONTROL
SS
PROCESS
OPTIMIZED
ERROR
0
誰も届かない。
誰も追えない。
誰も理解できない。
それはもう――
人間が扱う“魔法”ではなかった。