悪役令嬢は世界のバグを修正する
闘技場中央。
次の試合。
名前が呼ばれる。
「カイル・ヴァルディア」
ざわめきが広がる。
視線が一斉に集まる。
彼はゆっくりと前に出る。
無駄のない歩み。
揺れない視線。
対戦相手は構える。
詠唱を始める。
防御を重ねる。
明らかに警戒している。
先ほどまでの試合とは違う。
相手は“理解している”。
だが――
カイルは止まらない。
短く息を吸う。
そして、
詠唱。
だがそれは、
“詠唱”と呼ぶには短すぎた。
一節。
いや、
単語に近い。
次の瞬間。
空気が変わる。
魔力が圧縮される。
密度が上がる。
目に見えないはずの魔力が、
“重さ”として空間にのしかかる。
観客席がざわめく。
「……重い」
「なんだこれ…」
「息が…」
発動。
爆発ではない。
膨張でもない。
“押し潰す”。
相手の魔法が、
構築途中で歪む。
防御が砕ける。
接続が断たれる。
構造ごと崩壊する。
正面から。
力で。
だが――
ただの力ではない。
精密。
正確。
必要な箇所だけを破壊している。
結果。
圧倒的勝利。
審判の声が響く。
「勝者、カイル!」
観客席がどよめく。
「……強い」
「今の、完全に押し潰した」
「でも無駄がない…」
「さっきのとは違う…」
レティシアの魔法は、
見えない。
だが、
カイルの魔法は見える。
過程も、
構築も、
発動も。
すべて視認できる。
だが――
違う。
「深さ」が違う。
同じ魔法でも、
層が一段深い。
構造の奥に触れている。
研究所・観測室。
ログが更新される。
HIGH OUTPUT
STABLE CONTROL
ANCIENT COMPATIBILITY
↑
研究員が低く言う。
「出力が異常です」
別の研究員。
「制御も安定しています」
「……適性、高い」
主任が画面を見つめる。
「浅く触れているな」
誰も反論しない。
闘技場。
カイルは静かに立っている。
何も起きていないかのように。
だが空気が違う。
圧が残っている。
観客席。
ざわめきが変わる。
「……レティシアと同格…?」
「いや…タイプが違う」
「でも勝てるの、あの二人だけじゃないか?」
視線が交差する。
レティシア。
カイル。
二人の間に、
まだ距離はある。
だが。
全員が理解していた。
この大会はもう、
その二人のための舞台になっている。
そして――
その二人だけが、
互いに対抗できる存在だった。