悪役令嬢は世界のバグを修正する
魔法研究所・観測室。
先ほどまでの興奮は消え、
代わりに、
重い緊張が空間を満たしていた。
中央の水晶が、
低く脈打つように光る。
観測式は止まらない。
むしろ、
回転速度が上がっている。
ログが連続して更新される。
TARGET
LETICIA
KYLE
二つの名前。
並列表示。
それだけで異常だった。
研究員が小さく言う。
「……同時検出です」
別の研究員。
「両方から反応」
「しかも――」
言葉が止まる。
表示が切り替わる。
ANCIENT RESPONSE
DUAL DETECT
観測室の空気が凍る。
誰もすぐに声を出せない。
主任がゆっくりと目を細める。
「両方か…」
その一言で、
全員が理解する。
一人ではない。
二人。
“同時に”古代層へ触れている。
あり得ない事象。
表示がさらに更新される。
SCRIPT LINK
MULTIPLE
FLOW
OVERLAP
研究員の手が止まる。
「……重なっています」
別の研究員。
「干渉領域に入る可能性あり」
主任が短く命じる。
「深度を上げろ」
観測式がさらに展開される。
水晶の光が強くなる。
ログが加速する。
次の表示が現れる。
SCRIPT INTERFERENCE
RISK
↑
研究員の声が低くなる。
「衝突した場合…」
別の研究員が続ける。
「通常層では処理できません」
「構造崩壊の可能性」
沈黙。
主任が静かに言う。
「事故になる」
誰も否定しない。
表示がさらに追加される。
STRUCTURE
UNSTABLE
FLOW
CONFLICT
ANCIENT LINK
ACTIVE ×2
二つの流れ。
二つの接続。
同じ層へ、
同時に干渉。
それは、
想定されていない状況だった。
主任がゆっくりと告げる。
「監視を最大に上げろ」
研究員たちが一斉に動く。
観測式が重なり、
解析が深くなる。
最後に表示が固定される。
ANCIENT RESPONSE
DUAL DETECT
SCRIPT INTERFERENCE
RISK
HIGH
闘技場では、
歓声が上がっている。
誰も知らない。
だが研究所だけは理解していた。
この先にあるのは、
“試合”ではない。
――事故になる可能性のある、接触だ。