悪役令嬢は世界のバグを修正する
魔法研究所・観測室。
静寂は、
一瞬で崩壊した。
中央の水晶が閃光を放つ。
白。
限界まで引き上げられた輝度。
――限界を越えている。
観測式が一斉に起動する。
強制的に。
制御を無視して。
円環状の魔法陣が回転する。
一つ。
二つ。
三つ。
止まらない。
増える。
重なる。
「全観測式、強制起動!」
「制御が効きません!」
研究員の声が交錯する。
表示が次々と上書きされる。
STRUCTURE ERROR
ANCIENT ACCESS
SCRIPT OVERWRITE
UNKNOWN USER
「ログが止まりません!」
「構造が書き換わってます!」
観測室の空気が一気に張り詰める。
主任が立ち上がる。
「停止手順を実行しろ!」
研究員が操作盤に手を走らせる。
遮断。
切断。
強制停止。
すべて入力される。
だが。
止まらない。
表示は消えない。
むしろ増える。
更新速度がさらに上がる。
SCRIPT OVERWRITE
SCRIPT OVERWRITE
SCRIPT OVERWRITE
「上書きされています!」
「こっちの命令が通りません!」
「アクセス元が不明です!」
「どこから――」
その瞬間。
水晶の中心が、
わずかに“歪んだ”。
表示が強く点灯する。
UNKNOWN USER
観測室に沈黙が落ちる。
誰もが気づく。
これは、
異常ではない。
“操作”だ。
誰かが。
この構造に触れている。
主任が低く言う。
「……止めろ」
だがその声は、
命令ではなく、
確認に近かった。
なぜなら。
すでに分かっていたからだ。
止まらない。
観測対象ではない。
これはもう、
“観測される側”ではない。
観測室の中心。
水晶の奥。
流れが一点に収束する。
闘技場。
中心。
対象が固定される。
表示。
TARGET
LETICIA
その下。
UNKNOWN USER
さらに――
一瞬だけ。
表示が書き換わる。
USER
LETICIA
すぐに戻る。
UNKNOWN USER
研究員の一人が、
かすれた声で言う。
「……ユーザー扱いです」
誰も否定しない。
表示が重なる。
STRUCTURE ERROR
ANCIENT ACCESS
SCRIPT OVERWRITE
UNKNOWN USER
そして。
観測室の全員が理解する。
これはもう、
“観測対象”ではない。
――誰かが、世界を操作している。