悪役令嬢は世界のバグを修正する
魔法研究所・観測室。
暴走するログのさらに奥。
通常は触れない領域。
封鎖されている層。
その深部に、
異常な変化が発生する。
「……深層ログ、展開します」
研究員の声。
水晶の一部が暗転する。
光が沈む。
代わりに、
別の“層”が浮かび上がる。
重い。
古い。
今までとは明らかに違う構造。
表示がゆっくりと現れる。
ANCIENT LAYER
一拍。
さらに、
下の行が書き換わる。
FULL RESPONSE
室内の空気が凍る。
研究員が叫ぶ。
「反応が最大値です!」
「封鎖領域、全応答!」
別の研究員が震える声で続ける。
「ロックが……」
「解除されています!」
表示が変わる。
LOCK:解除
沈黙。
誰も動けない。
あり得ない。
古代層は封鎖されている。
管理権限でも、
完全開放はできない。
部分的な観測が限界。
それが――
“全開放”。
研究員がかすれた声で言う。
「完全開放です……」
「制限がありません」
「防御機構が……動いていない」
本来なら、
異常を検知した時点で、
遮断されるはずだった。
侵入は拒否される。
だが今は違う。
拒否されない。
遮断されない。
“受け入れている”。
主任が静かに問う。
「誰が承認した」
答えはない。
あるはずがない。
承認ログは存在しない。
許可された記録もない。
それでも。
開いている。
沈黙。
表示がゆっくりと明滅する。
ANCIENT LAYER
FULL RESPONSE
LOCK:解除
その意味は、
あまりにも明確だった。
これは侵入ではない。
これは突破でもない。
――“開けられた”。
内側から。
研究員の一人が、
ほとんど無意識に呟く。
「……鍵があるみたいに」
誰も否定しない。
否定できない。
なぜなら。
すでに分かっているからだ。
この接続。
この開放。
その中心にいる存在。
表示が重なる。
TARGET
LETICIA
そして。
古代層は、
完全に応答している。
まるで――
“正しい鍵”を受け取ったかのように。