悪役令嬢は世界のバグを修正する
魔法研究所・観測室。
暴走していた全ログが、
ついに一つの結果へと収束する。
散乱していた情報が整列する。
対象。
経路。
権限。
すべてが一点に集まる。
中央の水晶が静かに明滅する。
表示が切り替わる。
USER IDENTIFICATION
一拍。
UNKNOWN
室内に緊張が走る。
研究員が息を呑む。
「識別不能……?」
だが。
その下の行が、
ゆっくりと更新される。
MATCH
さらに。
LETICIA
空気が止まる。
誰も声を出せない。
研究員の一人が、
震える声で言う。
「……一致しています」
「未知ユーザーと……対象が」
「完全に一致」
あり得ない。
UNKNOWN。
識別不能。
定義外。
それが、
特定の個人と一致する。
論理が成立しない。
だが。
表示は変わらない。
USER IDENTIFICATION
UNKNOWN
MATCH
LETICIA
主任がゆっくりと口を開く。
「つまり」
一拍。
室内の視線が集中する。
「“未知”が本人だ」
その言葉が、
静かに落ちる。
誰も否定しない。
できない。
なぜなら、
すでに証明されている。
この存在は、
識別できない。
定義できない。
分類できない。
それでも――
確かに存在している。
研究員が呟く。
「世界が……認識できていない」
「定義できないまま、接続を許している」
それは異常ではない。
例外でもない。
もっと根本的な、
破綻。
表示が静かに明滅する。
UNKNOWN
MATCH
LETICIA
世界の側が、
彼女を“理解できていない”。
それでもなお、
接続は成立している。
その事実だけが、
観測室に重く沈んだ。