悪役令嬢は世界のバグを修正する
闘技場。
古代魔法の余波が、
空間に“残っていた”。
爆発はない。
衝撃もない。
だが。
歪みだけが、
消えない。
空気が揺れている。
固定されたまま。
止まっているのに、
動いているように見える。
観客席からざわめきが漏れる。
「……何だ、あれ」
誰かの声が、
わずかに遅れて届く。
音がずれる。
一瞬だけ、
現実と噛み合わない。
光も同じだった。
結界の輝きが、
遅れて瞬く。
魔法陣の発光が、
わずかにズレる。
時間そのものが、
揺れている。
闘技場の中央。
歪みの中心。
レティシアとカイルの間。
その空間が、
完全に“固定された異常”として残っている。
誰も近づけない。
触れられない。
ただ、そこにある。
その時。
空が、
わずかに暗くなる。
誰かが顔を上げる。
違和感。
雲ではない。
影でもない。
――“描かれている”。
空の高い位置。
見えないはずの場所に、
線が浮かび上がる。
一本。
また一本。
それは、
魔法陣ではなかった。
円ではない。
陣でもない。
もっと単純で、
もっと根本的なもの。
ルーン。
文字。
構造そのもの。
観客が息を呑む。
「……あれ」
「魔法陣じゃないぞ」
「何だ、あれは……」
空に描かれていく。
線。
配置。
順序。
それは“詠唱されていない”。
誰も発動していない。
それでも、
現れている。
闘技場全体が、
その影の下に入る。
レティシアだけが、
それを正しく認識していた。
(……同じ)
視界の中で、
ルーンが重なる。
地面の魔法陣。
空のルーン。
同じ構造。
だが――
規模が違う。
深さが違う。
(上から……来てる)
その瞬間。
空のルーンが、
わずかに回転する。
表示が浮かび上がる。
SYSTEM ALERT
STRUCTURE ERROR
誰も触れていない。
誰も発動していない。
それでも、
確かに“表示された”。
観客席がざわめく。
教師たちが立ち上がる。
騎士団が一斉に動く。
だが。
誰も理解できない。
これは魔法ではない。
術式ではない。
――“世界そのものの反応”だ。