悪役令嬢は世界のバグを修正する
闘技場上空。
浮かび上がったルーンが、
ゆっくりと回転を始める。
静かに。
だが確実に。
一つ。
また一つ。
順番に。
構造が組み替わっていく。
それは魔法陣の展開ではない。
“書き換え”。
既に存在している流れへ、
上から重ねるように。
レティシアの視界。
ルーンの流れが見える。
順序が変わる。
接続が変わる。
優先順位が入れ替わる。
(……上書き)
その瞬間。
表示が空に浮かぶ。
FORCED CONTROL
EVENT OVERRIDE
誰も詠唱していない。
誰も操作していない。
それでも、
処理は進む。
次の瞬間。
“止まった”。
試合。
動き。
流れ。
すべてが、
一斉に停止する。
審判。
腕を上げたまま、
完全に静止する。
観客。
立ち上がりかけた姿勢のまま、
動かない。
声も。
途中で途切れる。
「ま――」
そこで止まる。
音が続かない。
時間が、
切り取られたように。
騎士団の一部が、
遅れて反応する。
だが、
その動きすら鈍い。
「……動け」
声が、
わずかに遅れる。
足が動くまでに、
一瞬の“間”がある。
それは拘束ではない。
命令でもない。
“優先順位の変更”。
人間の意思よりも、
上位の処理が走っている。
レティシアだけが、
その違和感を正確に捉えていた。
(流れが……変わった)
魔法の流れではない。
もっと上。
全体の処理。
(イベント……上書きされてる)
視界の中で、
ルーンが再構築されていく。
本来の進行。
対戦。
勝敗。
それらが、
強制的に書き換えられていく。
彼女の周囲。
すべてが“止められている”。
だが。
それは停止ではない。
“制御されている”。
空の表示が、
静かに明滅する。
FORCED CONTROL
EVENT OVERRIDE
それは命令ではない。
宣言でもない。
すでに実行されている処理の、
確認だった。
この停止は、
誰かの判断ではない。
――世界そのものの処理だ。