悪役令嬢は世界のバグを修正する
闘技場中央。
カイルは立っている。
だが――
動けない。
足が出ない。
腕が上がらない。
力が入らないのではない。
“通らない”。
(……止められている)
思考はある。
意識もある。
だが、
体が従わない。
彼はゆっくりと理解する。
これは拘束ではない。
魔法でもない。
「制御……か」
小さく、呟く。
声は出た。
だがわずかに遅れる。
世界の中で、
優先順位が下げられている。
(俺たちが)
視線を動かす。
周囲。
止まっている。
参加者。
観客。
騎士団の一部。
すべてが、
どこか不自然に遅れている。
(全員じゃない)
動いている者がいる。
騎士団。
魔導院。
そして――
一人。
レティシア。
彼女だけが、
自然に立っている。
一歩、
動く。
止まらない。
遅れない。
完全に、
“通常のまま”。
カイルの目が細くなる。
(……違う)
これは、
例外ではない。
選別だ。
世界が、
対象を分けている。
制御する側。
制御される側。
そして――
どちらにも属さない存在。
レティシア。
彼女の動きは、
あまりにも自然すぎた。
制限の影響が、
一切見えない。
(あいつは……)
理解が、
一歩進む。
完全ではない。
だが、
確信に近い何か。
「……お前だけ動いているのか」
低く、
問いかける。
声は届く。
わずかに遅れて。
だが、
確実に。
レティシアがわずかに視線を向ける。
その動きもまた、
“制限外”だった。
カイルは確信する。
(止められているのは、俺たちだ)
そして。
(あいつは――違う)
完全には理解していない。
だが、
気づき始めている。
世界の処理。
その外側に、
立っている存在がいることに。