悪役令嬢は世界のバグを修正する
第10章 章ラスト
シーン2 レティシアだけが動く(完全例外)
静止した闘技場の中で、
ただ一人。
レティシアだけが、
“普通に”立っていた。
足に力を入れる。
一歩、踏み出す。
何も起きない。
抵抗も、
遅延も、
制限もない。
周囲のすべてが止まっているのに、
彼女だけが、
“次の動作”へ進める。
(……動ける)
違和感はない。
むしろ、
自然すぎる。
視線を巡らせる。
空。
巨大ルーン。
地面。
魔法陣。
人。
騎士団。
魔導院。
観客。
すべてが、
“途中”で止まっている。
だが、
それらは壊れてはいない。
止まっているだけでもない。
彼女の視界には、
別のものが見えている。
ルーン。
線。
接続。
順序。
(読める)
完全に。
意味も、
構造も、
意図も。
それは記号ではない。
命令。
処理。
流れが見える。
だが、
動いていない。
(止まってる……?)
すぐに否定する。
(違う)
流れは存在している。
順序もある。
次の処理も、
定義されている。
ただ――
実行されていない。
(……止められてる?)
それも違う。
止める命令が、
存在しない。
強制停止でもない。
(……じゃあ)
わずかに思考が沈む。
そして、
答えに触れる。
(“待ってる”)
処理待機。
未確定。
次の実行条件が満たされるのを、
ただ待っている状態。
その瞬間。
すべての構造が、
別の意味を持ち始める。
ルーンは図形ではない。
命令列。
流れは現象ではない。
処理順序。
魔法は力ではない。
実行結果。
(これ……)
理解が、
一段深く落ちる。
(世界……)
少し間。
(プログラム……?)
言葉にしきれない感覚。
だが、
確信だけは揺らがない。
これは魔法体系ではない。
“構造”だ。
そして今。
それは――
“書き換え可能な状態”にある。
レティシアは、
空のルーンへと視線を向ける。
そこには、
未実行の処理が並んでいた。
順序待ち。
条件待ち。
未確定のまま、
止まっている。
(触れる)
そう思った瞬間、
違和感はなかった。
触れていい。
いや――
“触れられる”。