悪役令嬢は世界のバグを修正する
学園・教員棟。
生徒のいない廊下は静かで、
外の喧騒が嘘のように遠い。
その奥。
小さな会議室に、
数名の教師が集まっていた。
机の上には資料。
記録。
そして、
魔法式の投影。
一人が指を走らせる。
空中に展開された式が、
わずかに揺れる。
「……ここだ」
低い声。
別の教師が目を細める。
「結界ログがまだズレている」
数値が更新される。
だが、
完全には一致しない。
「補正はかかっているはずだろう」
「かかっている」
即答。
だが、
続く言葉は重い。
「それでも、戻りきっていない」
別の記録が開かれる。
魔法式の実行ログ。
発動。
処理。
完了。
その一連の流れ。
だが、
よく見れば――
「遅れているな」
誰かが呟く。
「……わずかに」
「誤差レベルだが」
沈黙。
だが、
その“誤差”の意味を、
誰もが理解している。
魔法において、
遅延は存在しないはずだった。
正しく構築されれば、
正しく発動する。
そこに、
ズレは生まれない。
だが今は違う。
「魔法式の遅延が残っている」
その一言で、
場の空気が固まる。
机の端に置かれた別の資料。
そこには、
各地の報告が並んでいた。
小規模な異常。
結界の不安定化。
発動遅延。
構造の乱れ。
「局所的なものばかりだが……」
「数が多い」
誰も、
“偶然”とは思っていない。
一人の教師が、
静かに言う。
「……完全には直っていない」
否定する者はいなかった。
あの時。
世界そのものに起きた異常。
それは確かに、
収束したように見える。
だが、
残っている。
消えていない。
表面は整えられた。
だが、
内部はまだ歪んでいる。
誰かが小さく息を吐く。
「このまま安定するのか……?」
答えは出ない。
ただ一つ、
確かなことがある。
世界は、
元に戻ったわけではない。
“戻された途中”のまま、
今も動いている。