悪役令嬢は世界のバグを修正する
魔法研究所・観測室。
静まり返った空間に、
規則正しい光だけが脈打っている。
円環状の観測式。
中央に据えられた水晶。
そのすべてが、
安定している――はずだった。
次の瞬間。
水晶が、強く発光する。
光が一段、跳ね上がる。
表示が更新される。
ANCIENT SIGNAL
RE-DETECTED
研究員が顔を上げる。
「反応が再発しています!」
別の観測式が連動して回転を始める。
ログが流れる。
数値が上昇する。
「増幅しています!」
「前回と同系統の波形です!」
室内の空気が、
一気に張り詰める。
その中心。
主任が静かに視線を向ける。
「場所は?」
短い問い。
すぐに応答が返る。
表示が切り替わる。
SOURCE
ANCIENT RUINS
一瞬の沈黙。
誰もがその意味を理解する。
前回の異常。
世界接続。
古代層への干渉。
その余波が、
まだ消えていない。
むしろ――
“繋がっている”。
主任がわずかに目を細める。
「……近いな」
距離の問題ではない。
層の問題。
接続の深さ。
あの時、
一度触れた場所。
そこに、
再び反応が出ている。
偶然ではない。
誘発されている。
あるいは――
呼応している。
研究員の一人が、
緊張した声で言う。
「どうしますか」
観測を続けるか。
封鎖するか。
切断を試みるか。
だが、
主任は迷わない。
ゆっくりと口を開く。
「対象を現地へ出す」
空気が変わる。
誰もすぐには言葉を返さない。
それが何を意味するか、
理解しているからだ。
観測では足りない。
解析でも足りない。
“接触させる”。
研究員が小さく呟く。
「……いいんですか」
主任は視線を外さない。
古代遺跡の表示。
その奥にあるものを見据えたまま、
低く言う。
「もう一度、触れさせる」
それは実験ではない。
確認でもない。
利用だ。
レティシアを。
“使う”と決めた瞬間だった。