悪役令嬢は世界のバグを修正する
魔導院・上層会議室。
高い天井。
重厚な石造りの空間に、
静かな緊張が満ちている。
円卓を囲むのは、
選ばれた高位魔導士たち。
誰も声を荒げない。
だが、
沈黙の重さが、
この場の異常を物語っていた。
空中に投影された記録。
魔法式のズレ。
結界の遅延。
各地で報告される小規模異常。
そのすべてが、
一つの結論を示している。
「……古代反応の再発だ」
誰かが低く言う。
別の魔導士が頷く。
「規模は小さいが、無視はできない」
「世界構造そのものが揺らいでいる」
その言葉に、
わずかな空気の変化が走る。
世界構造。
それは、
通常なら触れることすら許されない領域。
だが今は、
それが“揺れている”。
一人が静かに口を開く。
「原因は明確だろう」
視線が一斉に向く。
言葉にはしない。
だが、
全員が同じ存在を思い浮かべている。
レティシア。
あの時、
世界に干渉した存在。
別の魔導士が続ける。
「観測だけでは足りない」
「再現性が必要だ」
短い沈黙。
そして、
結論は自然に出る。
「学園遠征を実施する」
異論は出ない。
それが最も“自然な形”だからだ。
教育。
実習。
調査。
どれも間違いではない。
だが、
どれも本質ではない。
本当の目的は一つ。
“動かす”こと。
対象を。
現地へ。
環境を整え、
条件を揃え、
反応を引き出す。
そのための遠征。
一人が静かに確認する。
「監視体制は?」
「騎士団が同行する」
「研究所とも連携済みだ」
すべてが、
既に準備されている。
偶然ではない。
計画だ。
最後に、
最も年長の魔導士が、
低く言う。
「……あれは、魔法ではない」
誰も否定しない。
「ならば」
一拍。
「我々の枠の外で、確かめるしかない」
静かに、
会議は終わる。
結論は出た。
これは教育ではない。
観測でもない。
“誘導”だ。
世界に触れた存在を、
次の接続点へと運ぶための。