悪役令嬢は世界のバグを修正する
騎士団本部。
石造りの広間。
整然と並ぶ装備と、
無駄のない静寂。
その中心にある指令卓に、
淡い光が浮かび上がっていた。
表示。
TARGET
LETICIA
STATUS
MONITOR
短く、
明確な情報。
だが、
その意味は重い。
副官がその前に立つ。
視線は揺れない。
「遠征に同行します」
報告ではない。
決定事項の確認。
対面に立つ隊長が、
わずかに頷く。
「当然だ」
即答。
そこに迷いはない。
一瞬の沈黙。
副官が続ける。
「対象の状態は継続して異常」
「前回の事象以降、完全な安定は確認できていません」
表示が更新される。
ANOMALY
PERSISTENT
「現段階では」
副官の声は一定だ。
「排除対象ではありません」
隊長が視線を上げる。
「……理由は」
問いは形式的なものに近い。
だが、
答えは重要だった。
「制御不能のまま排除した場合、影響範囲が不明です」
「加えて」
一拍。
「対象は“構造干渉能力”を保持しています」
空気がわずかに重くなる。
魔法ではない。
戦力でもない。
“干渉”。
それは騎士団の想定外の領域だった。
隊長が低く言う。
「つまり」
副官が答える。
「敵対行動よりも、管理が優先されます」
表示が再び変わる。
PRIORITY
CONTROL
危険対象。
その段階は過ぎた。
監視対象。
それも通過した。
今の位置は――
“要管理対象”。
隊長はしばらく無言で表示を見つめる。
そして、
静かに言った。
「……戦闘ではないな」
副官が頷く。
「はい」
「管理フェーズです」
その言葉で、
すべてが確定する。
剣で解決する段階ではない。
排除する段階でもない。
扱う段階。
隊長はゆっくりと背を向ける。
「同行部隊を選定しろ」
「最悪を想定する」
副官が即座に応じる。
「了解」
足音が静かに響く。
その背後で、
表示だけが残る。
TARGET
LETICIA
STATUS
MONITOR
その意味は、
もう以前とは違っていた。
それは警戒ではない。
管理対象としての、
確定だった。