悪役令嬢は世界のバグを修正する
講堂のざわめきは、
まだ収まっていなかった。
遠征。
古代遺跡。
非日常への期待が、
空気を軽くしている。
その中で、
ふと一部の視線が動く。
入口。
静かに扉が開く。
一人、
遅れて入ってくる影。
帝国の制服。
整った立ち姿。
周囲の空気が、
わずかに変わる。
「……あいつ」
「帝国のやつも来るのか」
小声が広がる。
「本気すぎない?」
誰かが苦笑する。
だが、
その言葉には半分、
本気が混じっていた。
カイルは何も言わず、
空いている席へ向かう。
足取りは自然。
だが、
周囲との距離が明確に違う。
座る。
その動作一つで、
周囲のざわめきがわずかに引く。
彼は視線を上げる。
講堂全体を一度だけ見る。
騎士団。
魔導院。
教師。
配置。
数。
距離。
すべてを一瞬で把握する。
そして、
ほんのわずかに視線をずらす。
その先。
レティシア。
窓際の席に座る彼女。
静かに、
周囲を見ている。
二人の視線が、
一瞬だけ交差する。
その瞬間。
カイルの目が、
わずかに細くなる。
理解。
確認。
言葉にしない情報が、
その一瞬で通過する。
カイルは視線を外す。
そして、
誰にも聞こえないほどの声で、
小さく呟いた。
「やっぱり動かすか」
その言葉は、
独り言にしか聞こえない。
だが、
そこには確信があった。
これは偶然ではない。
計画だ。
そして、
その中心にいるのは――
レティシア。
カイルは静かに座ったまま、
前を向く。
表情は変わらない。
だが、
その内側では、
すでに次の展開を読んでいる。
(遺跡か……)
わずかな思考。
(そこまで引っ張る気か)
誰にも聞こえない。
誰にも見えない。
だが、
彼だけは理解している。
この遠征は、
ただの実習ではない。
“誘導”だ。
そして、
自分もまた――
その流れの中にいる。