悪役令嬢は世界のバグを修正する
講堂のざわめきは、
ゆっくりと収束していく。
遠征の話題は尽きない。
笑い声。
期待。
だが、
その中で一人だけ、
違うものを見ている。
レティシア。
彼女は静かに座ったまま、
視線をわずかに動かす。
まず、
天井付近。
学園を覆う結界。
本来なら、
均一に流れるはずの魔力。
だが――
わずかに、
歪んでいる。
流れが揃っていない。
ほんの一瞬、
遅れる箇所がある。
次に、
足元。
講堂の床に刻まれた魔法陣。
安全維持のための補助式。
通常は、
完全な循環を保っている。
だが、
今は違う。
線が、
微妙にずれている。
接続の順序が、
ほんのわずかに狂っている。
そして、
人の動き。
生徒たち。
教師。
騎士。
そのすべてが、
問題なく動いているように見える。
だが、
よく見れば。
一拍。
ほんの一拍だけ、
遅れている。
完全に同期していない。
視界の奥で、
薄く表示が浮かぶ。
MINOR DESYNC
誰にも見えない。
彼女にだけ見える。
(まだ繋がってる)
小さく、
確信する。
あの時。
世界の奥に触れた瞬間。
あの“下”。
深い層。
そことの接続が、
完全には切れていない。
(消えてない)
むしろ、
残っている。
細く。
弱く。
だが、
確実に。
レティシアは視線を上げる。
講堂の外。
遠くの空。
そのさらに奥を、
見るように。
(同じ……)
このズレ。
この歪み。
あの時と、
同じ種類のもの。
つまり。
この先にあるものも、
同じ。
遺跡。
そこは、
ただの過去の遺物ではない。
“繋がっている場所”。
あの層へ。
レティシアは何も言わない。
ただ静かに、
その違和感を受け入れている。
世界は整っているように見える。
だが、
その裏では――
まだ、
接続が残っている。